風のような

【かぜのような】形容詞句

使い分けの視点

「風のような」は比較先の速さ・不可視性・掴めなさ・涼しさのどれを移すかで意味が変わります。「矢のような」は直線性、「煙のような」は形の変化、「そよぎめいた」は弱い気配へ絞ります。比喩の直前に動作や感覚を置き、読者が選ぶ性質を一つへ寄せると曖昧さを制御できます。

同義語

同品詞の類義語

そよぎめいた文芸的
気流みたいなcolloquial
そよ風めく文芸的
微風の

類義句

同品詞の慣用的言い換え

音もなく駆け抜ける文芸的
捕まえられない
頬を撫でるような文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

矢のような文芸的
雲を切るような文芸的
煙のような

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ふわりとcolloquial
音もなく
捕まえる間もなく

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

通り過ぎる
駆け抜ける
頬を撫でる文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

気配の残り香文芸的
そよぎの足音文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

捕まえる間もなく消える文芸的
気配だけ残して去る文芸的
形を持たないような文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

取り出す性質エッセイ関連

例文: 逃亡者の速さを先に示すことで、風から取り出す性質を掴めなさではなく速度へ絞った。

似ているは同値関係ではない——比喩を集合で考える

数学では、ある関係が同値関係と呼ばれるための条件が三つ決まっています。どの要素も自分自身と関係すること、AとBが関係するならBとAも関係すること、AとBが関係しBとCが関係するならAとCも関係すること。反射律、対称律、推移律です。似ている、という日本語の関係は、このうち一つ目しか安心して満たしません。風のような人、と言えても、人のような風、とはまず書かない。前者は速さや掴めなさを人物に移す操作ですが、後者は自然物を擬人化するまったく別の操作になります。向きを変えると別種の文になる時点で、対称律は破れている。

推移律も成り立ちません。彼女は風のようで、風は矢のようだ、と二つ並べても、彼女が矢のようだという結論は出てきません。矢を比較先に取る比喩が拾うのは直線性と一方向の速さであり、風を比較先に取る比喩が拾うのは掴めなさや不定形さです。同じ相手を経由しても、経由のたびに取り出される成分が入れ替わってしまう。だから類義の比喩を集めた一覧は、意味の等しいものが入った箱ではなく、部分的にしか重ならない帯として扱うのが実態に近い。並んでいるからといって差し替えが利くわけではないのです。

では比喩は何をしているのか。集合の言葉に置き換えると、比較先が持つ性質の全体から、その場面に要る部分集合を取り出す操作にあたります。風が持つ性質を、速い、見えない、掴めない、一定しない、涼しい、と五つ挙げたとしましょう。取り出しうる部分集合は空集合まで数えれば三十二通りです。書き手はそのうちの一つを想定して書き、読者は文脈から別の一つを選んで読む——両者が一致する保証はどこにもありません。しかも候補の性質が一つ増えるだけで組合せは倍になりますから、輪郭の広い比較先ほど、誤読の余地は指数的に膨らみます。

距離という言葉を比喩の説明に使いたくなりますが、これも正確ではありません。距離には対称性が要ります。AからBまでとBからAまでが等しくなければ、そもそも距離とは呼べない。すでに見たとおり比喩は向きを持つので、距離の公理を満たさない——測る道具として、形が合っていないのです。使えるとすれば順序のほうでしょう。この描写よりあの描写のほうが風に近い、という比較は場合によって成り立ちます。ただしそれは全順序ではなく半順序で、比較できない対が必ず残る。速さの成分で近い描写と、不可視性の成分で近い描写は、どちらが上とも決められません。

実作の側へ降ろすと、対策は一点に絞られます。取り出したい成分を、比喩の外側であらかじめ確定させること。走り去る動作を先に書いてから使えば速さが選ばれ、掴みどころのない振る舞いを先に示してから使えば不定形さが選ばれます。比喩そのものを凝るより、その直前の一文で読者の選択肢を削るほうが効く。三十二通りを一通りに絞るのは比喩の仕事ではなく、比喩を置く位置の仕事だ、と考えると、推敲で手を入れる場所も変わってきます。曖昧さを許容量として設計する視点は、言い換えの一覧を眺めているかぎり手に入りません。

文: hakadoru.ai 編集部

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