かつ

【かつ】接続詞

使い分けの視点

かつは、話し言葉から退場して紙の上に避難した語です。八百年のあいだに意味は並列のしるしへ痩せ、引き換えに法令や論文の格式を得ました。地の文に置けば論説の匂いが立ち、台詞に置けば四角四面な人物が一語で像を結びます。古層には「かつ消えかつ結びて」の呼応用法もあり、掘り起こせば二つの動きが同じ速度で並走する感触を書けます。履歴ごと使える、数少ない接続詞です。

同義語

同品詞の類義語

なおかつ文芸的
ならびに文芸的
および文芸的
また

類義句

同品詞の慣用的言い換え

同時に
それと同時に
あわせて

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

もって文芸的
兼ねて文芸的
しかして文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

必要かつ十分エッセイ関連

例文: 必要かつ十分な条件だけが、黒板に残された。

かつ祈り、かつ疑いエッセイ関連

例文: かつ祈り、かつ疑いながら、彼女は峠の灯りを探し続けた。

泡を写す語から留め具へ——八百年をかけた「かつ」の痩身

「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」。方丈記の冒頭近く、鴨長明が川面の泡を描いた一節です。ここでの「かつ」は、現代の法律文書で見る「必要かつ十分」と同じ語でありながら、働きがまるで違います。一方では消え、他方では生まれる——二つの出来事が同じ水面の上で同時に進行している、その同時性を「かつ……かつ……」と呼応させて示す副詞でした。

古語の「かつ」はこのように、単独では「一方では」、呼応の形では「あちらでは……こちらでは……」という同時併存を表しました。歌にも散文にも現れる、動きを孕んだ語だったのです。やがて漢文訓読の世界で、接続の字「且」の訓にこの語が当てられ、書き言葉の中で前後の句を結ぶ用法が育っていきます。和語が漢文の論理をまとった、と言ってもいいでしょう。今日私たちが知る接続詞としての顔は、この訓読の伝統の中で固まったものと考えられています。

八百年のあいだに起きたことを整理すると、二つの変化が重なって見えます。第一に、意味が縮小しました。「同時に進行する」という時間的な内容が抜け落ち、単なる並列・累加のしるしへ痩せていきました。第二に、位相が上昇しました。日常の話し言葉からは退場し、法令、契約書、論文といった硬い書き言葉の専用語になりました。意味が痩せた語が、引き換えに格式を得る——通時変化ではしばしば見られる取引です。いま日常会話で「安くて、かつうまい」と口にすれば、幾分おどけた響きが混ざるでしょう。

目を引くのは、これだけ変わりながら音の形はまったく摩耗していないことです。よく使われる語は口の中で角が取れていきます。「ありがたく」が「ありがとう」になり、「ござります」が「ございます」になったように、頻度の高い語ほど発音は短く滑らかになります。ところがこの語は二拍のまま、姿を変えていません。理由はおそらく、話し言葉から降りたことにあります。書き言葉の語は舌ではなく目で受け取られ、早口の連なりの中で擦られる機会がありません。摩耗するには、擦れ合う相手が要るのです。意味だけが痩せて形が残ったのは、紙の上へ避難したことの副産物でした。行き着いた先の法制執務では、接続の語の使い分けに細かな慣例があり、「かつ」は複数の条件が同時に満たされるべきことを示す役を負います。論理学でいう連言にかなり近い顔つきです。流れる水面の泡の生き死にを写していた語が、いまは要件の同時充足を縛る留め具として働いています。

小説で使うなら、この履歴ごと使いたいところです。現代の用法は、地の文に置けば論説の匂いを持ち込み、台詞に置けば四角四面な人物を一語で立ち上げます。そしてもうひとつ、古層の呼応用法をあえて掘り起こす手があります。「かつ祈り、かつ疑いながら歩いた」。現代文の中でこの形は古風に響きますが、二つの心の動きが同じ速度で並走する感触は、「ながら」の並列では出ません。並列は前後をつなぐだけで、同時に走っている二つの速度までは写さないからです。八百年前の用法は、まだ引退していません。

文: hakadoru.ai 編集部

エディタで直接置換して執筆を加速

SaaS エディタではシソーラスの結果をワンクリックで本文に反映できます

無料で始める →