語る

【かたる】動詞

使い分けの視点

「語る」は、一言でなく体験や過去など一定のまとまりを聞き手へ運ぶ。「話す」は会話行為全般、「述べる」は意見を順序立てて示し、「口述する」は記録者へ文章を声で渡す。「物語る」は言葉のない証拠が事情を示す場合にも使える。聞き手の位置と、運ばれる時間の大きさで選び分ける。

同義語

同品詞の類義語

話す
述べる文芸的
口述する文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

言葉を尽くす文芸的
物語を紡ぐ文芸的
胸を開く文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

川の流れのような文芸的
詩のような文芸的
糸車のように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

滔々と文芸的
ぽつぽつとcolloquial
淡々と

体言的言い換え

用言を体言に変換

語り文芸的
口述文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

述懐する文芸的
物語る文芸的
披瀝する文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

時間を運ぶ動詞エッセイ関連

例文: 漂流者は助かった一言だけで済ませず、失った日々を順に語った。その「時間を運ぶ動詞」が、聞き手を無人島の夜へ連れていった。

送り仮名は動きの化石——「物語」に「り」がない理由

校正の現場で、ときどき手が止まる箇所があります。「ものがたり」は「物語」と書き、「り」を送りません。ところが「かたりべ」は「語り部」、「かたりて」は「語り手」で、こちらには「り」が現れます。同じ「かたり」を含むのに、複合語ごとに送り仮名が付いたり消えたりする。一見恣意的ですが、この揺れには一貫した理屈があります。

現行の目安である内閣告示「送り仮名の付け方」は、活用のある語は活用語尾を送ることを原則とします。「語る」「語れば」「語らない」——語幹の「かた」は動かず、動く部分だけを仮名が引き受ける。つまり送り仮名とは、その語が活用という運動をしている最中だという標識です。連用形から転じた名詞「語り」が「り」を保つのも、動詞出身の履歴がまだ生きているからです。一方で告示は、慣用が固定していると認められる語について送り仮名を省くと定め、例に「物語」「番組」「日付」などを挙げています。同じ原理から、名詞の「話」は「し」を送らず、動詞の「話す」や複合の「話し合い」は送る、という分業も生まれます。「物語」はもはや「物を語る」という動きに分解されて意識されない、ひとつの固まった名詞——いわば化石です。送り仮名の有無は、その語がまだ動いているか、すでに石になったかの記録として読めます。

同じ音には、別の漢字の問題も絡んでいます。人をだまして金品や名を得る意味の「かたる」には「騙る」の字がありますが、「騙」は常用漢字表に入っていないため、報道などでは仮名書きにされるのが通例です。この二つの「かたる」を同源とみる説もあります。言葉巧みに聞かせることと、言葉巧みにだますことは、たしかに紙一重です。ただし定説とまでは言えず、複数の説がある、と留めるのが安全でしょう。いずれにせよ、表記の制度が「騙」の字を日常から遠ざけた結果、悪事のほうの「かたる」は文字の上で顔を失い、文脈だけがそれを支えることになりました。

小説の書き手にとって、ここまでの事情はそのまま選択肢になります。漢字で書けば、内容のあるまとまった発話という含みが立つ。「かたる」と仮名で開けば、音だけが残り、聞かせる方なのかだます方なのか一瞬宙づりになる——詐話師や信用できない語り手を書くとき、この宙づりは武器になります。逆に「騙る」をあえて使えば、ルビの助けを借りつつ、字面そのもので読者に悪意を予告できます。表記は意味の後をついてくる添え物ではなく、意味を先回りして演出する装置です。

「はなす」がおしゃべり一般を広く指すのに対し、この動詞は、聞き手の前に筋のあるまとまりを差し出すときに選ばれてきました。だからこそ名詞形が「物語」という一語に固まり、送り仮名を落とすほど使い込まれたのだと言えます。ある語の送り仮名が消えるまでには、無数の書き手がその語を書き続けた時間が必要です。原稿の中で「り」を送るか送らないか迷うとき、触れているのは規則であると同時に、その言葉が積んできた使用の歴史でもあります。

文: hakadoru.ai 編集部

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