物憂さ

【ものうさ】名詞

使い分けの視点

名詞の「物憂さ」は情動を文中へ埋め込みやすく、音も輪郭を立てず滑らかに流れます。「倦怠」は硬く区切り、「億劫さ」は行動への抵抗、「虚脱感」は大事の後の空白を示します。目立たせないなら助詞へ流し、転換点として残すなら体言止めと句点で止めます。

同義語

同品詞の類義語

倦怠文芸的
気だるさ
億劫さ
けだるさcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

身体の重み
気力の空白文芸的
心の沈滞文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

鉛を背負ったような
よどんだ水のような文芸的
綿に包まれたような

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

身が重たげに沈む文芸的
気が乗らないcolloquial
身を起こせない

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

ぼんやりとした疲れcolloquial
穏やかな停滞文芸的
気分のうす曇り文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

輪郭のない物憂さエッセイ関連

例文: 輪郭のない物憂さが、長い廊下を歩く足へまとわりついた。

破裂音がない四拍——埋没する語の使いどころ

声に出して並べてみます。ものうさ。けだるさ。おっくうさ。けんたい。四つとも近い状態を指しますが、口の中で起きていることはまるで違う。最初の語には、息の流れが完全にせき止められる瞬間が一度もありません。子音は m と n と s だけで、鼻音と摩擦音、いずれも息を止めずに引き延ばせる音です。二つめには k と d と r が入る。三つめは促音と長音で二度つっかえる。四つめは撥音を挟んだ漢語で、k と t の破裂が二度あり、最初から硬い。

この差は数えられます。四拍という長さは最初と二つめと四つめで共通なので、長さの問題ではない。違うのは、息の流れが止まる回数です。この語には破裂音が一つも含まれていません。母音の並びも、o-o-u-a と、後半で狭くなってから開く。閉じるための動作を要求しない語だ、とは言えそうです。

ただし、ここで警戒しておかないといけないことがあります。音から意味を説明する論法は、ほとんどいつでも後付けで成立してしまう。意味を知ったうえで音を聞けば、どんな音の並びでもその意味にふさわしく聞こえます。破裂音がないから怠さを感じさせる、と言うのは簡単ですが、同じ理屈で「まなざし」や「にせもの」も怠く聞こえなければおかしい。どちらも四拍で、破裂音を一つも含みません。実際には聞こえない。音と意味の対応を主張したくなったら、まず反例を探すべきで、この場合は反例がすぐ見つかります。

それでも捨てずに残るものがあります。音そのものが意味を喚起するという仮説を降ろしても、拍数と音の種類は意味と独立に測れる事実だからです。

測れる事実をもう一つ足しておきます。日本語の拍には、単独では立てない種類のものがあります。撥音、促音、長音の後半。これらは特殊拍と呼ばれ、前の拍にぶら下がるようにして時間だけを占めます。四つ並べた語のうち、三つめは促音と長音を含み、五拍のうち二つが特殊拍。四つめは撥音を一つ含み、四拍のうち一つが特殊拍です。二つめには特殊拍がなく、そして最初の語にもない。つまり最初と二つめは、四つの拍がすべて自立していて等間隔に並ぶ。特殊拍を含む語は内部に段差ができ、含まない語は平らに流れます。段差の有無は、意味の解釈を経由せずに数えられる。測れる事実は、文のリズムの側で使える。この語に助詞が付けば五拍から六拍、修飾語を伴えば一つの塊として文の中央を占めます。破裂音を含まない塊は、前後の語と境目を作りにくい。境目ができないということは、読者の目が止まらないということです。

その性質は、欠点にも武器にもなります。強い印象を残したい一文の末尾には向きません。「けんたい」なら k と t で二度切れるので、言い切ったときに輪郭が立つ。ところがこちらは輪郭が立たないまま次の助詞へ流れていく。ゆえに、際立たせたくない情動を書くときに音の側も際立たない、という一致が起きる。名指されたことに読者が気づかないまま通過させたい状態には合っている。逆に、その一語を読者の記憶に刺したいのなら、体言止めにして後ろに句点を置き、流れる先を物理的に塞ぐしかない。音が助けてくれない語では、句読点が仕事をすることになります。

文: hakadoru.ai 編集部

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