悲しみ

【かなしみ】名詞

使い分けの視点

「憂い」は静かな陰り、「嘆き」は外へ出る声、「傷心」は喪失後の状態に向きます。「悲しみ」は程度より抱えられる実質として、底や重さ、容器の比喩と結びつきます。一段落で尺度の比喩と容器の比喩を混ぜず、失った対象を具体物で支えます。

同義語

同品詞の類義語

憂い文芸的
嘆き文芸的
愁い文芸的
傷心文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

胸の痛み
心の翳り文芸的
涙の影文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

胸を刺すような痛み
夜のような静けさ文芸的
降り積もる雪のような重み文芸的
凍てつくような冷たさ文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

胸を締めつける
瞳を曇らせる文芸的
心に翳が差す文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

やるせなさ
失意文芸的
痛恨文芸的
胸の奥が軋む文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

悲しさエッセイ関連

例文: 悲しさが増すほど、彼女は亡き友の手紙をゆっくり読んだ。

距離一の隣人——表層が近い組と、意味が近い組

投稿の山を機械に仕分けさせる仕事があります。文章に感情のラベルを付け、集計して傾向を出す。このとき最初に決めるのはラベルの数です。基本感情を六つ前後に絞る枠組みが引かれることが多く、その一つとしてこの名詞が置かれる。箱を用意した時点で、寂しさも、口惜しさも、取り返しのつかなさも、同じラベルの下に集められます。分類器の精度をいくら上げても、この畳み込みで落ちたものは戻らない。語彙のほうが分類より細かいという当たり前の事実は、精度の数字には現れません。

検索の側でも似たことが起きます。この名詞で本文を探したいとき、「哀しみ」と書かれた箇所を同じものとして拾うかどうかは、機械が自力で決められることではない。表記ゆれの吸収は、たいてい人の作った対応表に頼っています。どの表記を同一視するかは辞書に書き込まれた判断であって、文字列そのものから導けるものではありません。しかも対応表は、それが書かれた時点の表記感覚で止まります。新しく現れた書き分けは、誰かが手で書き足すまで機械の側には存在しない。

解析の段階でも、この語は余分な手間を要求します。文を単語へ切る処理では、同じ文字列に複数の品詞が割り当てられうるとき、どれを採るかを決めなければならない。この三文字は、名詞としても、動詞の連用形としても成立します。深い悲しみ、と書かれていれば名詞。友の死を悲しみ、しばらく机に向かえなかった、と続けば動詞のほうです。判定の材料は前後の助詞と、その先に来る述語しかありません。同じ領域を担う「悲しさ」には、この曖昧さがそもそも生じない。対応する動詞が存在しないからです。隣り合う二語のうち、片方だけが品詞の分岐点になっている——語彙表の上では対等に並んでいるのに、処理の難しさが同じではないわけです。しかも誤った結果は品詞の欄にしか現れないので、集計だけを眺めている人の目には入りません。

近さの指標として、編集距離(レーベンシュタイン距離)という尺度があります。挿入・削除・置換の最小回数で二つの文字列の隔たりを測るもので、定義も実装も単純です。ところがこの語の周辺では、指標がうまく働かない。悲しみと悲しさは距離一、悲しみと哀しみも距離一。しかし前者は意味の型そのものが違い、後者はほぼ同義で表記だけが違う。同じ距離一の中に、意味の遠い組と近い組が同居している。表層の距離と意味の距離は独立している、と言ってよい。正規化が難しいのは、この独立性のためです。

表層で測れないなら文脈で測ればよい、という道もあります。似た文脈に現れる語は意味も近いという仮定を置き、語を数百次元の数値の並びへ写す方法が、いまは広く使われています。字面の似ていない語どうしを近くに置けるのが利点です。ところがこの語の周辺では、別の困りごとが起きる。表記だけが違う二つは文脈もほぼ同じですから、当然近くに並ぶ。接尾辞だけが違う二つも、共に現れる述語の重なりが大きいので、やはり近くへ並んでしまいます。距離の値は同じでも、近い理由が違う。数値の並びは、その理由のほうを保存しません。編集距離が表層しか見ないのと対称的に、この方法は表層をまったく見ない。表記の揺れと語形成の違いを区別する手掛かりは、結局どちらの側からも出てこないことになります。

型の言葉で整理すると見通しがよくなります。「さ」と「み」はどちらも形容詞から名詞を作る接尾辞ですが、広く言われる整理では、前者は程度を量る方向、後者は実質や状態そのものを指す方向を向いている。前者は形容詞を数量へ写す関数、後者は形容詞を対象へ写す関数、と考えると近い。生産性にも差があり、「さ」はほぼどの形容詞にもつきますが、「み」がつく語は限られます。高み、深み、痛みは成立しても、対義側の形容詞に同じ接尾をつけると据わりが悪くなる。定義域が全体に及ぶ関数と、定義域が虫食いになっている関数の違いです。

書く側にとっての含みは、この二系統が要求する述語の違いです。程度の名詞は測る動詞と結びつく。増す、和らぐ、といった語です。実質の名詞は場所や容器の比喩と結びつきやすい。抱える、沈む、底、といった語がそれにあたります。——一文の中でこの二系統を混ぜると、比喩の座標がずれて、読者は輪郭を結べない。深さを測っていたはずの文が、途中から容器の中身の話になる。ラベルの設計と同じで、単位をどこで切るかを先に決めておくほうが、あとの修正が少なくて済みます。

文: hakadoru.ai 編集部

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