声を張り上げる

【こえをはりあげる】動詞句

使い分けの視点

遠くや雑音の向こうへ意図して声量を上げる語群です。「叫ぶ」「怒鳴る」「喚く」は感情も強く、「高唱する」「朗々と」は内容を広く響かせます。「声を張る」「腹から呼ぶ」は届かせる技術へ寄るため、距離、騒音、複数の聞き手を場面に置きます。

同義語

同品詞の類義語

叫ぶ
怒鳴る
高唱する文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

大声を出す
口を大きく開ける
腹から発する文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

鐘のような文芸的
号砲のように文芸的
凱歌のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

高らかに文芸的
朗々と文芸的
力強く

体言的言い換え

用言を体言に変換

号令
雄叫び文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

腹から呼ぶ文芸的
声を張る
喚くcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

広場の端まで届くエッセイ関連

例文: 避難を命じる声が広場の端まで届くと、荷車を引く人々も一斉に門へ走った。

目的語がひとつしかない複合動詞

腕を張り上げる、とは言いません。旗を張り上げる、根を張り上げる、値を張り上げる、意地を張り上げる——どれも成立しない。単独の「張る」は驚くほど広い目的語を取る動詞で、テントにも氷にも意地にも相場にも使えるのに、後ろに一語つないだ途端、取れる目的語がほぼ一つに縮みます。声、大声、金切り声、怒鳴り声。いずれも同じ一点の言い換えです。前項が広く、複合すると狭くなる。この非対称が、複合動詞という単位の性格をよく表しています。

後項の「上げる」は、日本語でとりわけ働き者の要素です。物理的に上へ動かす用法(持ち上げる、拾い上げる)、動作を最後まで遂行する用法(書き上げる、作り上げる、調べ上げる)、そして程度が増す用法。この三つ目に属するのが今回の語です。複合動詞には、部品の意味の足し算で説明できる生産的な型と、ひとまとまりで辞書に登録され意味が計算できなくなった型がある、という考え方が広く採られています。声について言う「張り上げる」は明らかに後者寄りで、「張る」と「上げる」を別々に理解しても、この意味には辿り着けません。狭さは、語彙化の代償です。

自他の対応にも欠落があります。声が張り上がる、とは言わない。自動詞形が存在しないのです。同じ声の変化でも、ふるえるほうには「震える/震わせる」という対がきちんと揃っています。この差は意味の差をそのまま映していて、この動作が意志的な行為としてしか捉えられていないことを示します。したがって、疲れて思わず大きくなった声や、興奮して勝手に上ずった声には使えない。使えば、その人物が意図して声量を上げたという読みが必ず立ち上がります。無意識に大きくなったことを書きたいなら、別の構文を用意するしかありません。

格の枠と副詞の相性も、この語の使いどころを規定しています。引用の「と」との結びつきが強く、「戻れ、と声を張り上げた」のように、発話内容と発話様態を一文に収められる。向きを持つ動作なので「〜に向かって」「〜の頭ごしに」といった句もよく付きます。一方、程度副詞とは噛み合いません。少し声を張り上げた、はどこか落ち着かない。語そのものが程度の増大を含んでいるため、そこへさらに程度を指定する語を重ねると、意味が二重になるからです。やや、わずかに、といった控えめな修飾を付けたくなったら、それはこの語ではない場面です。

書く側の判断としては、条件が揃っているかを見ます。距離があること、雑音があること、あるいは複数の相手に届かせる必要があること。この三つのどれかが場面に書き込まれていれば、この動作は必然として読まれます。逆に、静かな室内で二人が向かい合っている場面に置くと、読者は人物の異常を読み取ろうとし、書き手の意図と別の解釈が走り出す。台詞がすでに感嘆符を背負っているなら、地の文は音量を繰り返さず、その声がどこまで届いたかを書けばいい。届いた範囲を書くほうが、音量そのものを書くより大きく聞こえます。

文: hakadoru.ai 編集部

エディタで直接置換して執筆を加速

SaaS エディタではシソーラスの結果をワンクリックで本文に反映できます

無料で始める →