焦がれる

【こがれる】動詞

使い分けの視点

届かない対象を助詞「に」で示し、熱と欠如が続く時間を描きます。対象は人に限らず、故郷、海、自由などにも広げられます。一語で段落を十分に熱くするため、周囲には冷えた物や繰り返す静かな動作を置き、思いの強さを際立たせます。

同義語

同品詞の類義語

恋う文芸的
憧れる
思慕する文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

身を削る文芸的
枕を濡らす文芸的
夢に見る

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

渇いた喉のような文芸的
炎のような文芸的
陽炎のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

一途に文芸的
狂おしく文芸的
切に文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

憧憬文芸的
恋慕文芸的
渇望文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

身悶えする文芸的
魂を奪われる文芸的
胸を掻きむしる文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

届かない対象へ向く熱エッセイ関連

例文: 届かない対象へ向く熱を抱え、故郷に焦がれる旅人は冷たい雨の港で船を待った。

燃える側と枯れる側——欠如の温度が言語ごとに違う

ポルトガル語の saudade は、訳しにくい語の代表としてしばしば挙げられます。失われたもの、遠くにあるものへ向かう感情を指しますが、日本語の「郷愁」でも「思慕」でも輪郭が合わない。ドイツ語の Sehnsucht も似た位置にあり、こちらは到達できないものへの持続的な渇望として説明されます。こうした語を並べていくと、どの言語も「手元にないものへ向かう心の動き」という同じ領域を切り分けているのに、切り分けの線がそれぞれ違うことが見えてきます。領域は共通で、分節が違う。翻訳の困難は、たいていこの線の位置のずれから生じます。

英語側で対応させられる語には、long for、yearn、pine、crave などがあります。このうち pine には、痩せ衰えるという含意が古くからあり、pine away は思いのために弱っていく状態を指します。つまり英語の一系統では、満たされない思慕は乾いて枯れる方向に身体を変える。日本語のこの動詞は反対に、燃える方向へ身体を変えます。同じ「欠如が身体を損なう」という発想を共有しながら、温度の符号が逆になっている。乾いて縮むのか、熱を持って焦げるのか。どちらも比喩ですが、比喩の選びかたが言語ごとに固定されているために、訳し替えると人物の身体の像まで入れ替わってしまいます。

逆方向、つまり日本語から出るときの困難のほうが深い。この一語は、熱の感覚と、欲求の対象と、その状態が続いていることを、同時に背負っています。英語へ渡すと burn with longing のように、動詞と前置詞句へ分解せざるをえない。分解されたものは意味としては等価でも、文の中での重さが変わります。一語で済んでいたものが三語になると、そこだけ文の速度が落ちる。訳文を読んだときに感じる説明臭さの多くは、意味の誤りではなく、この圧縮率の差から来ています。

格の振る舞いも一緒に見ておく価値があります。この動詞は自動詞で、対象は「に」で受ける。憧れる、恋う、思い焦がれる——いずれも対象を直接つかまない格を選びます。対して英語の crave は目的語を直接取る他動詞です。つかむ言語と、届かないまま向かう言語。ここに文化的な性格を読み取りたくなりますが、格支配は語ごとの慣習に強く依存するので、一つの対から一般化するのは危険です。確実に言えるのは、日本語のこの語を使った時点で、対象は手の届かない位置に置かれるということだけです。

訳せないという事実は、しばしば欠落として語られます。ただ実際に起きているのは、その一語が一つの言語の中で引き受けている仕事の量が多すぎて、別の言語の一語では持ち切れない、という状況です。仕事が多い語は、地の文に置いたときの負荷も大きい。この動詞を一度使うと、その段落の温度は一段上がり、周囲の語がそれに引きずられます。使うなら、前後を意図的に冷やしておくこと。持ち切れないほどの重さは、翻訳者を困らせる欠点であると同時に、書き手が一語で場面を傾けられるという、そのまま裏返しの利点です。

文: hakadoru.ai 編集部

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