地味

【じみ】形容動詞

使い分けの視点

「地味」は周囲の色、同じ集団、期待された演出などの参照点より目立たないという相対評価です。「控えめな」は自制や節度を好意的に見られ、「質素な」は費用や装飾の少なさ、「くすんだ」は色や輝きの低下です。「華のない」「押し出しの弱い」は不足を否定的に捉え、「渋さ」は抑えた味わいを価値に変えます。何と比べた評価かを場面に置きます。

同義語

同品詞の類義語

目立たない
控えめな
くすんだ
質素な

類義句

同品詞の慣用的言い換え

華のない
人目を引かない
押し出しの弱いcolloquial

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

影法師のような文芸的
壁紙めいたcolloquial
灰色の空のごとき文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

目立たずに
ひっそりと
控えめに

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

存在感を薄める
人目を避ける

体言的言い換え

用言を体言に変換

目立たなさcolloquial
渋さ

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

くすぶったcolloquial
影の薄い
ありふれた

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

派手エッセイ関連

例文: 派手な鎧を囮にした隊長の背後で、農夫の服を着た斥候たちが捕虜を救い出した。

参照点を書かなければ働かない形容

「地味が痩せる」という言い方が、古い農書や地誌に出てきます。これは「ちみ」と読み、土地の肥沃さ、作物を育てる力のことです。同じ二字を「じみ」と読むと、まったく別の語になる。こちらは地の味、すなわち染めや飾りを加えない素のままの様子を指したと説明されます。表記が一致したのはほとんど偶然で、二つの語は歴史も意味も交わりません。もっとも、素のままという発想が土の色を連想させるのは確かで、読み違えたところで大きくは外れないのが厄介なところです。字面の偶然が、語の印象をひそかに補強している例と言えます。

この語は単独では立ちにくく、常に「派手」との対で働きます。派手のほうの語源には、三味線の弾き方で本手に対する破格の手を指した「破手」に由来するという説があり、よく紹介されますが確定はしていません。いずれにせよ両語が対として意識されるのは近世で、主として衣服の色や文様をめぐる語彙でした。江戸期には奢侈を戒める触れが繰り返し出され、町人の装いが表向き抑えられた時期があります。表に出せない意匠が裏地や小物へ移ったという説明はよく語られるところで、抑制がそのまま美意識に転じる過程がここにあったと考えられています。

明治以降、この語は衣服の外へ広がっていきます。洋装と制服が入り、黒や紺が公的な場の標準色になりました。役人、教員、会社員という勤め人の類型が生まれ、目立たないことが職業倫理の一部として扱われはじめる。堅実、実直、質素といった徳目のとなりに置かれ、褒め言葉としての用法が安定します。ところが同じ時期に、広告と百貨店が育ち、目立つことに経済的な価値がつきはじめました。二つの流れは並走していて、この語の評価が肯定にも否定にも振れるのは、どちらの文脈で発話されたかによります——一語の中に、勤め人の倫理と消費社会の値づけが同居している。

制度の話をひととおり並べたうえで、あらためて言葉の側を見ると、この語がずっと相対的であり続けた点に気づきます。絶対的な地味さというものはない。同じ濃紺の背広が、葬儀の場では標準で、夏の海辺では過剰で、同僚が全員明るい色を着ている部屋では引き算になる。判定には必ず参照集団が要ります。歴史を通じて動いたのは、この語が指す色や形ではなく、誰を基準にするかという参照点のほうでした。近世は身分、近代は職業、そのあとは同世代というふうに、基準の取り方が入れ替わってきただけとも言えます。

だから人物をこの一語で紹介すると、記述は空転しがちです。読者は基準を知らないので、書き手の頭の中にある平均を推測するしかない。参照点を先に置けば、同じ語が急に働きはじめます。全員が制服を着ている教室で、その人物だけが規定どおりに着ているという書き方。あるいは、周囲の誰も気にしていない場所で、本人だけが目立つまいとしているという書き方。前者は集団についての記述で、後者は本人の意志についての記述になる。参照点の置き方ひとつで、この語は外からの評価にも内面の描写にもなります。

文: hakadoru.ai 編集部

エディタで直接置換して執筆を加速

SaaS エディタではシソーラスの結果をワンクリックで本文に反映できます

無料で始める →