魅力

【みりょく】名詞

使い分けの視点

「惹きつける力」は作用を明示し、「蠱惑」「引力」は本人の主導権が奪われる感覚を強めます。「チャーム」は軽やかな愛嬌に向きます。抽象名詞だけで人物を要約せず、声、選択、登場時の文章など具体を積んだ後に説明しきれない余りとして使います。

同義語

同品詞の類義語

惹きつける力
蠱惑文芸的
チャームcolloquial
引力

類義句

同品詞の慣用的言い換え

抗いがたい何か文芸的
人を虜にする雰囲気
目が離せない何かcolloquial

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

磁石のような
甘い蜜のような文芸的
渦のような文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

心を奪う
目を離せなくさせるcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

言いようのない吸引力文芸的
得体の知れない引力
何ともいえない味わいcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

説明の届かない余りエッセイ関連

例文: 三つの長所を挙げても、なお説明の届かない余りを語り手は魅力と呼んだ。

説明を拒む名詞が、近代小説に必要だった理由

明治から大正にかけての小説を続けて読んでいると、人物の印象を書く手つきが今とかなり違うことに気づきます。容姿、身分、話し方、周囲の評判——外側の事実を積んでいって、読者にその人物の像を組み立てさせる。惹かれるという内側の運動そのものを名指しにいく書き方は、思ったほど多くありません。近代小説は人物の内面を書くための装置として発達したはずなのに、いちばん内側にあるはずのこの領域だけが、しばらく空欄のまま残されていたように見える。

この空欄の埋め方に、書き手たちはかなり苦労した形跡があります。理屈をつければつけるほど、惹かれること自体が消えてしまう。ある人物が別の人物に惹かれる理由を残らず説明した文章は、読み終えたときに恋の話ではなく人事評価のように見える。説明が成功すると対象が壊れる、という厄介な性質がここにはあります。だから、説明を引き受けない名詞が一つ必要になった。中身を開けないまま置ける袋のような語が。

その袋として使われるようになった語の、もとの姿を見ておきます。「魅」は物の怪を表す字で、魑魅の魅です。人を惑わせ、正気を奪う側の字だった。今でも「魅了される」「魅入られる」と、受け身の形で現れやすいのは偶然ではないでしょう。惹かれている当人には主導権がない、という含みが字の中に残っている。恋愛の場面でこの語が便利なのは、主体を宙吊りにできるからです。誰が選んだのでもない、という顔をしたまま関係を進められる。

近代の小説が内面を書こうとしたとき、和語だけでは間に合わない場面が繰り返し出てきました。感情や性質を名詞として取り出す必要があるのに、和語の形容詞はそのままでは名詞になりにくい。そこを二字漢語が埋めていった経緯は、内面を扱う語彙の全般に見られます。漢語は輪郭が硬く、いったん置けば議論の対象として扱える。惹かれるという動きも、名詞の形を得たことで、はじめて作中人物どうしが話題にできるものになりました。誰かが誰かの評判を口にする場面を書けるようになったというのは、書き手にとって小さくない獲得だったはずです。

ただ、ここは自分で疑っておかなければならない。便利さは、そのまま描写の放棄と隣り合わせです。彼女には不思議な力があった、と一行書いて済ませたとき、読者に渡っているものはほとんどありません。文学史の側から見ると、この種の要約語は語り手が人物の外に立つ三人称でこそ働き、一人称ではうまく機能しない傾向があります。理由は考えてみれば単純で、自分の感情を要約する語り手は、その瞬間に感情から一歩降りてしまうからです。取り憑かれている当人が、取り憑かれた状態を的確に名付けられるはずがない。

読者の側からも見ておきたいことがあります。読者が惹かれているのは作中人物そのものではなく、その人物が現れるときの文章のほうです。同じ人物でも、登場のたびに書き方が雑になれば関心は落ちる。逆に、たいした事件が起きない場面でも、その人物が出てくると文の密度が上がる作品がある。人物に備わった性質として書かれているものは、実のところ文の側に配分されている——この入れ替えに気づくと、名詞をどう使うかという問いは、人物設定の問題から文章の運用の問題へ移ります。

だとすると、この語の使いどころは要約ではなく宣言のほうにあります。原因が特定できないという事実を、書き手が引き受けて宣言する場所。理由を三つ並べたあとで、それでも説明が届いていないと認めるために置く。近代の小説が空欄のままにしておいた領域は、埋められたのではなく、埋められないと表示するための札が立てられただけだった——そう考えると、この語を安易に使ってしまう癖にも、少し違う光が当たります。札を立てる前に、まず三つ並べているかどうか。

文: hakadoru.ai 編集部

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