光もなく

【ひかりもなく】副詞句

使い分けの視点

「光もなく」は明るさすらない徹底した不在を、次の動作へ持ち越す。「漆黒」は色と深さ、「灯火を欠く」は用意された照明の不在、「闇に閉ざされる」は外から遮断された状態を強調する。視覚を封じた直後は表情を描かず、音、床の冷たさ、呼吸などへ感覚の比重を移す。

同義語

同品詞の類義語

暗闇の中で
闇に沈んで文芸的
灯りも漏れずに
漆黒の中で文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

闇に閉ざされて文芸的
灯火を欠いて文芸的
明かりひとつなく

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

真っ暗にcolloquial
ひっそりと文芸的
黒々と文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

闇に沈む文芸的
灯りを欠く文芸的
暗がりに包まれる

体言的言い換え

用言を体言に変換

深い闇文芸的
灯火なき夜文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

灯火の影もなく文芸的
明かりを失って
闇のさなかに文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

視覚の予算を移すエッセイ関連

例文: 照明が消えた坑道で、少女は誰の顔も描写できない代わりに、靴音と冷気と近い呼吸へ「視覚の予算を移す」ように集中した。

消灯しても暗くならない部屋で、闇の語彙は何を指しているか

部屋の照明を落としても、真っ暗にはなりません。通信機器の小さな緑、充電中の橙、カーテンの隙間から入る街灯の白。目が慣れれば、天井の模様まで見える。都市に住む書き手が闇を書くとき、参照しているのは自分の実体験ではなく、書物のなかで受け継がれてきた形のほうかもしれません。そう考えると、この句はもう観察の言葉ではなく、様式として保存された道具に近いことになります。

……そう書いてから、すぐに疑わしくなりました。山中のトンネル、停電の夜、目を閉じた瞬間の暗さ。完全な暗さが失われたというのは、明らかに言いすぎです。ただ、失われていなくても、日常の側から遠ざかったことは確かでしょう。かつて暗さは、日が沈めば毎晩やって来る前提でした。電灯が家々に行き渡るまでの長い時間、夜は作業をやめる合図であり、火を用意しなければ何も始まらない時間帯だった。前提が事件に変わったとき、それを指す言葉が担う役目も変わります。以前は状況の記述だったものが、今は異常の合図になっている。

暗さが誰かの意思で作られる状態になった時期も、実際にありました。戦時下の灯火管制では、窓を覆い灯を絞ることが義務として課され、街全体の明るさが行政の管理下に置かれます。空から見えないようにするための暗さですから、そこでの闇は世界の側の性質ではなく、人が命じて作った状態です。こうした経験を通った言語では、暗いという状態のうしろに、命じた主体や、それに従った人々の手つきが薄く残ることになります。現代の計画停電が日時を予告され、復旧の見込みまで併せて告知されるのも、遠く同じ系列にある出来事でしょう。暗さは、いつ終わるかを誰かが知っている状態になった。管制が解かれて街に灯が戻った夜のことが、戦争の終わりを目で知らせた出来事として語り継がれているのも、同じ構図の裏返しです。明るさの側にも意思があると分かってしまえば、その不在にも意思が読み込まれる。

語の側にも動きがありました。「あかり」はもともと明るいという状態を指す語で、行灯や電灯といった器具そのものを指すのは、意味が狭く固まってからのことだとされています。「ともしび」に至っては、火を点すという動作を名の中に抱えたままです。状態から道具へ、あるいは動作から物へ。この移動が起きた結果、不在を語るときの手触りも変わりました。器具を持たない時代の暗さは、世界の側の性質です。器具のある時代の暗さは、誰かが消したか、切れたか、届かなかったという事情を含む。「灯火を欠いて」と書くか「明かりひとつなく」と書くかで責任の所在がわずかにずれるのは、そのためだと考えられます。

名詞の側にも同じ種類の移動が起きています。「ひかり」は動詞「ひかる」の連用形が名詞として立った形で、はじめは物が光を放つという出来事の名でした。対象として固まったあと、用法は比喩の方向へ大きく伸びます。一筋の光、光明、前途に光が見える——希望を指す使い方は、いまでは日常語のほうに厚い。だから、光が無いと書いた一文は、照度の話だけで止まってくれません。読者は暗さを受け取ると同時に、見通しの不在まで一緒に受け取ってしまう。二重に読まれては困る場面なら、器具の名を出すか、時刻を出すか、視界の届く距離を数で書くほうが安全です。「闇」のほうはさらに遠くまで行きました。見えないという状態から出発して、公にできない取引の側へ移り、闇市や闇取引といった語を作る。意味が悪い側へ振れる変化としては、かなり分かりやすい例でしょう。

もっと遡ると、明暗はそもそも色の骨格でした。古代日本語の基本的な色彩語であるアカ・クロ・シロ・アヲは、明るい・暗い・はっきりしている・ぼんやりしている、という対立から出たという説が知られています。この見方に立つなら、暗いとは黒いことであり、同時に色が一枚もない状態でもある。闇を書くとは、色を剥がしていく作業に近い——という言い方は詩に寄りすぎますが、実務としては使えます。剥がしたあとに何を残すかで、文が生きるか死ぬかが決まるからです。

視覚を封じる宣言をした直後の一文が、この句の成否を決めます。何も見えないと書いておきながら、次の行で人物の表情が描かれている原稿は珍しくありません。逆に、封じたまま何も開かない原稿は、ただ読みにくい。開くべきは、距離の分かる音、床の冷たさ、自分の呼吸が思ったより近く聞こえること。暗さの描写とは、視覚に割いていた予算を他の感覚へ移し替える操作であって、暗いと書くことそのものではありません。

文: hakadoru.ai 編集部

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