翻る

【ひるがえる】動詞

使い分けの視点

物の動きでは「はためく」「なびく」が持続を、「翻る」は表裏が入れ替わる一瞬を捉えます。「前言を覆す」「変節」は判断の反転へ移った語です。旗や裾の動きと人物の立場の変化を重ねる場合は、背反の含みまで意識して選びます。

同義語

同品詞の類義語

はためく文芸的
なびく文芸的
返る

類義句

同品詞の慣用的言い換え

身をかわす文芸的
裾を乱す文芸的
旗色を変える文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

旗のような
波打つ衣のような文芸的
蝶の翅に似た文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ひらりとcolloquial
ばさりとcolloquial
風に任せて文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

反転
翻身文芸的
変節文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

裾を躍らせる文芸的
身を反す文芸的
前言を覆す

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

表裏が入れ替わるエッセイ関連

例文: 突風で地図の表裏が入れ替わると、裏面の密約が露わになった。

裏返る動きが、意志の反転を引き受けるまで

風の強い日にベランダへ出ると、干したシーツが持ち上がって、日の当たる面と影の面がひと息に入れ替わります。まくれ上がる、はためく、といった語も近くにありますが、この、表と裏が交代する一瞬だけを取り出す語がある。物が回転して別の面を見せるという、それだけの動きです。日常でこの動詞を口に出す機会はさほど多くありませんが、目の前で起きていることの説明としてはきわめて具体的で、抽象の入り込む隙がありません。

語の作りには、いくつかの説明が並んでいます。古い形は「ひるがへる」で、後半は「かへる」つまり返るだと見るのが自然ですが、前半の「ひる」が何かについては定説がありません。他動詞「ひるがへす」と対をなす自他の組で、この対応自体は古くから安定しています。漢字の「翻」は羽を含み、鳥が羽ばたく動きに関わる字です。和語が持っていた裏返りと、漢字が持っていた羽ばたきが、訓を通して一つに束ねられました。旗が風を受けている状態を書くとき、この二つの像は重なって働いています。

同じ動きを指す語は、時代が下るにつれて増えていきました。裏返る、ひっくり返る。後者は「引き繰り返る」の縮まった形で、接頭辞の「ひっ」は「引き」が促音化したものだと説明されます。動作を強めるこの接頭辞を持つ語は、口語の層に厚く分布しています。結果として、同じ回転を述べる語が層をなして並ぶことになりました。文語的な五拍の動詞、和語の複合、口語の強調形。どれを選ぶかで、書かれている出来事は変わらないのに、文の属する層だけが移動します。古い語が押し出されずに残ったのは、新しい語が抽象の側の仕事を引き受けなかったからでしょう。

変化が起きたのは意味の側です。物が裏返るという具体的な事態から、決めたことが反対の側へ転じるという抽象的な事態へ、用法が広がりました。前言を翻す、判決を翻す。物理的な回転を、意志や判断の反転に写す動きで、具体から抽象へ向かうこの方向は、意味変化の中では珍しくありません。ただし、この語の場合は拡大と同時に別のことも起きました。抽象側の用法が特定の言い回しの中に固定され、自由に使える範囲がむしろ狭まっている。今この動詞と自然に結びつく名詞を挙げると、旗、裾、袖、髪、そして前言や判決といった限られた顔ぶれに落ち着きます。使える場所が増えたぶん、それ以外の場所では使いにくくなった——語の一生には、こういう出入りの合わない収支がしばしば現れます。

同じ拡張は、漢字の側でも並行して起きていました。翻訳、翻案、翻刻。いずれもこの字を頭に置きながら、旗も裾も出てきません。指しているのは、あるものを別の形へ移し替える作業です。面を返すという原義から、内容はそのままに外側だけを入れ替えるという意味へ、字のほうも重心を動かしていた。和語の訓が判断の反転を引き受け、漢語の音が形式の移し替えを引き受ける。同じ字の内側で二本の拡張が別方向へ伸び、いまでは互いを思い出させないところまで離れています。訓読みの語と音読みの熟語が、共通の字を持ちながら別々の意味圏に住むという事態は、この語に限りません。翻訳という語を見て、そこに旗の像を思い浮かべる人はまずいません。字の原義が失われたのではなく、熟語の側に吸収されて見えなくなっただけです。和語で読むときにだけ、羽と裏返りの像がもう一度立ち上がる。同じ字を訓で読むか音で読むかが、絵を呼ぶか呼ばないかの切り替えになっています。

共起の偏りは、語そのものの色も変えます。反旗を翻す、という言い回しが繰り返し使われると、その言い回しが持つ反逆の含みが、動詞の側へにじみ出す。言語の計量研究では、ある語がどんな評価をまとった語と一緒に現れやすいかを問題にし、意味的韻律と呼ばれる現象として扱われてきました。この動詞は本来まったく中立で、シーツにも旗にも等しく使えるはずですが、抽象の用法では、ほぼ必ず何かに背く場面に現れます。書き手が中立のつもりで置いても、読者は背反の気配を先に受け取ることがある。

そのため、この語は今も二つの層を同時に鳴らします。表と裏が入れ替わるという目に見える運動と、立場が反対側へ移るという見えない運動。旗が風にあおられる描写の直後に、人物が前言を撤回する場面を置けば、読者は説明なしにその二つを結びつけます。同じ語の中に古い層と新しい層が積み重なっている状態は、書き手にとっては、一語で二つの出来事を重ねられるという条件にほかなりません。

文: hakadoru.ai 編集部

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