焦がす

【こがす】動詞

使い分けの視点

他動詞として、誰が何に熱を加え、どんな跡を残したかを明確にします。「焦げる」と違って作用させる側に焦点があるため、火を止めるのが遅れた人や理由も見えます。完全な破壊より表面の変化を描くと、失敗と責任を物として場面に残せます。

同義語

同品詞の類義語

炙る文芸的
煤ける文芸的
黒ずませる

類義句

同品詞の慣用的言い換え

火を通しすぎるcolloquial
胸を痛める文芸的
灰にする

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

炭のような文芸的
煙を立てるような
灼熱の跡のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

うっすらと
ぱちりとcolloquial
強火で

体言的言い換え

用言を体言に変換

焼損文芸的
おこげcolloquial
炭化

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

焼き色をつける
黒く染める文芸的
台無しにするcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

残った焦げ跡エッセイ関連

例文: 火を止めたあとも残った焦げ跡が、誰が鍋を見離したかという責任を物語った。

火の上の鳥——一字の中に残っている調理の光景

「焦」という字を横に割ると、上に隹、下に灬が残ります。隹は尾の短い鳥をかたどった字で、灬は火が下に置かれたときの形です。つまりこの字は、鳥を火にかけている光景をそのまま組み立てた会意の字だと説明されてきました。集、雑、進、雀。隹を含む字は多く、そのほとんどが鳥に由来します。字の中に調理の場面が畳み込まれているというのは、後付けの物語のようでいて、実際に象形から会意へ積み上げていった漢字の作りかたに沿っています。ただし灬を持つ字がすべて火に関わるわけではなく、無や烏のように別の由来が語られる字もあるので、部品の一致だけで意味をつなぐのは危うい。

和語の側を見ると、この動詞は「焦げる」と対になっています。同じ語幹から、他動詞と自動詞が形を変えて枝分かれする型で、汚す/汚れる、枯らす/枯れる、溶かす/溶けるなどが同じ組です。日本語はこの自他の対応を非常に規則的に持っていて、多くの動詞について、誰かが働きかける形と、勝手にそうなる形の両方が用意されている。料理で失敗したとき、鍋を焦がしたと言うか、鍋が焦げたと言うかで、責任の所在が入れ替わる。文法上の二形が、そのまま責任の配分装置になっているわけです。

この語が心理へ渡るとき、奇妙なことが起こります。他動詞なのに、目的語が自分の身体になる。胸を焦がす、身を焦がす。他人を焦がすとは普通言いません。働きかける側と働きかけられる側が同一人物に折り畳まれていて、外から見れば何も起きていないのに、内側では熱源が作動している——この構造は、恋情を扱う語の中でもかなり特殊です。悲しませる、驚かせるといった動詞は他者に向けられますが、この語は自分にしか向かわない。だから、相手が原因であっても、文の上では相手は原因の位置にしか置けない。

もう一つ、熱の残しかたの問題があります。焦がすという処理は、燃やすと違って対象を消しません。表面が炭化し、色が変わり、匂いが残り、形は保たれる。火が通り過ぎたことの記録が物の上に残る点で、燃やす/焼くとは結果の質が違います。だから比喩として使われたときも、消滅ではなく変質を意味することになる。何かに焦がされた人物は、失われたのではなく、跡が付いたまま生き続けている。この含みは、字の成り立ちよりも、実際の調理という行為の物理から来ています。

実作で気をつけるべきなのは、この語の二つの層——調理の層と情念の層——が近すぎることです。台所の場面で鍋を焦がし、同じ段落の中で胸を焦がすと書けば、読者はまず言葉遊びとして受け取ります。狙って重ねるなら、少なくとも数ページの距離を置いたほうがいい。逆に、情念の側だけを繰り返すと、この語はすぐ手垢のついた飾りになります。有効なのは、焦げたものが物として一つだけ画面に残っている場面です。鍋底でも、写真の端でも、指先でもかまわない。物の側に痕跡が一つあれば、心の側は書かなくても伝わります。

文: hakadoru.ai 編集部

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