決意

【けつい】名詞

使い分けの視点

「決意」は迷いを断った結果を硬い漢語で要約し、人物の内面から少し距離を取る語です。「覚悟」は到来する困難への構え、「決心」は選ぶまでの心の動き、「断行」は決めた後の実行を強く示します。内容を明かさず一語だけ置けば、読者に異なる解釈を残せます。

同義語

同品詞の類義語

覚悟
決心
断行文芸的
文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

腹を据える思い
退路を断つ心文芸的
一歩を踏み出す意志

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

鋼のような
刃を抜くような文芸的
橋を渡すような文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

腹を決めるcolloquial
踏ん切るcolloquial
肚を括る文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

意志
気魄文芸的
踏ん切りcolloquial
腹づもりcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

言い切らない決意エッセイ関連

例文: 手紙に残された「覚悟」という一語は、言い切らない決意ゆえに二通りの未来を予感させた。

行為で示す決意エッセイ関連

例文: 少女は行為で示す決意に従い、宣言の代わりに崩落した坑道へ駆け戻った。

読み違えられた一語——『こころ』のKが遺したもの

夏目漱石『こころ』の後半、下宿の一室でKが「私」に向かって漏らす一語があります。「覚悟、——覚悟ならないこともない」。お嬢さんへの想いを打ち明けられていた「私」は、これを恋を貫く宣言と受け取り、先を越される恐怖に駆られて動く。しかし物語を最後まで読んでから戻ると、同じ一語は、自分自身を処分する方向の覚悟としても読めてしまう。近代日本文学でもっとも名高い読み違えの一つです。

決意という漢語は「意を決する」の圧縮で、音にすれば硬い三拍の響きを持ちます。明治の言文一致以降、小説が人物の内面を書く技術を組み上げていく過程で、この種の心的漢語は書き言葉の側に厚く蓄積されました。和語で言えば「思い定める」「心を固める」に当たりますが、和語が過程の手触りを残すのに対し、漢語は結果を切断面として提示する。語り手が人物の内面から少し距離を取り、上から見下ろすように心理を要約するとき、漢語は便利な足場になります。三人称の語りが漢語の心理語彙を好んできたのは、この距離の効果と切り離せないでしょう。

この語はとりわけ宣言と相性がいい。日記に書きつける、手紙で告げる、遺書に残す。『こころ』の後半がまるごと遺書の形式を取っていることは、こうした語彙群の性格と無縁ではないはずです。内面の最も重い部分は、声ではなく紙の上で言い切られる——それが近代小説の発明した型の一つでした。声は遮られ、問い返され、揺らぎますが、書かれた宣言は完結したまま読者の手元に届く。遺書とは、揺らぎを封じた決意の器です。

対照的な書き方もあります。太宰治『走れメロス』のメロスは、胸中を長々と語り続けはしません。走る。疑い、挫け、また走る。語られたものは疑えますが、走っている身体は疑えない。宣言として紙に置くか、行為として見せるか。近代小説はこの二つの書き分けを繰り返し試してきました。漱石が遺書という器で前者を極限まで推し進めたとすれば、『走れメロス』は後者の簡潔な見本です。そして両者のあいだに、語られた決意が揺らいでいく過程そのものを主題にする書き方が広がっている。口に出した瞬間に固定され、以後の揺らぎがすべて裏切りとして読まれてしまう——この語の厄介な性質を、文学は欠点としてではなく題材として使ってきました。

ここから書き手が引き出せる技術は明快です。人物の決意を書くとき、その中身を言い切らせないこと。Kの一語が痛切なのは、内容が明示されないまま、聞き手の「私」と読者のそれぞれに別々の像を結ばせるからです。恋の宣言と死の予告、正反対の二つが同じ二文字の上に同時に立っている。多義のまま置かれた語は読者ごとに違う像を結び、読み返しのたびに別の顔を見せます。明示されたものは一度しか読めないが、余地を残したものは二度読める。Kの「覚悟」が百年を超えて引用され続けているのは、思想の深さである以上に、この余白の設計ゆえだと考えられます。

文: hakadoru.ai 編集部

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