曖昧

【あいまい】形容動詞

使い分けの視点

「曖昧」は、複数の解釈が残る状態、境界が引けない状態、態度を保留する人物の三つを覆います。「どっちつかず」は立場へ、「ぼやけた」は知覚へ、「言葉を濁す」は意図的な回避へ寄ります。後で誤解を解くのか、境目を示すのか、態度を決めさせるのかまで考えて選びます。

同義語

同品詞の類義語

ぼんやりしたcolloquial
どっちつかずのcolloquial
茫漠とした文芸的
ぼやけた

類義句

同品詞の慣用的言い換え

煮え切らない
言葉を濁した
灰色の文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

霧に包まれたような文芸的
影絵のような文芸的
二枚舌みたいなcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

もやもやとcolloquial
どっちつかずにcolloquial
のらりくらりとcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

言葉を濁す
ぼかす

体言的言い換え

用言を体言に変換

玉虫色
グレーゾーンcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

白黒のつかない
含みのある
腑に落ちない

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

二つに読める返事エッセイ関連

例文: 二つに読める返事を信じたため、使者たちは別々の門へ向かった。

二種類の不確かさに、一枚の布をかける

論理学と言語哲学では、二種類の不確かさを区別します。一つは複数の解釈が成り立つこと。「彼は銀行へ行った」の銀行が、金融機関なのか川岸なのかで割れるような場合です。もう一つは、境界がどこにあるか決められないこと。髪が何本抜ければ禿頭かという問いに答えがないような場合です。前者は解釈の数の問題、後者は境界の問題——原因も対処も違います。英語ではこれを ambiguity と vagueness という別の語で呼び分けます。前者は文脈を足せば解消しますが、後者は文脈をいくら足しても解消しません。境界がないことは情報の不足ではなく、対象の側の性質だからです。この区別は用語の整理ではなく、対処の可否を分ける線です。

日本語の「曖昧」は、この二つの上に一枚の布のようにかぶさっています。多義で困っているときにも、境界が引けなくて困っているときにも、同じ一語で足りてしまう。だから訳す段になると、原文の書き手が選ばなかった区別を、訳者が代わりに選ぶことになります。ambiguous、vague、obscure、equivocal、noncommittal。どれを当てるかで、原文が言っていなかったことが英語の側には書き込まれてしまう。翻訳の難所とは、多くの場合こういう非対称のことです。語彙が足りないのではなく、分節の線の引かれ方が違う。線の細かい側から粗い側へ訳すときは情報が落ち、粗い側から細かい側へ訳すときは情報が足されます。

訳語の選択が、そのままテキストの主題になった例があります。一九九四年のノーベル文学賞受賞講演で、大江健三郎は演題を「あいまいな日本の私」としました。川端康成の「美しい日本の私」を踏まえた題で、英語では ambiguous が当てられています。近代日本が抱えた引き裂かれ、どちらとも決めきれなかった位置を指す語としての選択であって、境界の不明確さを言う語ではこの意図は立ちません。二つの方向のあいだで引き裂かれていることと、輪郭がぼやけていることは、まるで違う状態だからです。訳語が主題を選び直してしまう場面が、実際に世界の前で起きた例だと言えます。一語の選択が講演の骨格を決めた出来事でした。

逆向きも見ておく必要があります。英語の vague を日本語に移すとき、「漠然とした」「ぼんやりした」が自然な場合が多く、「曖昧」を当てると余計なものが付いてきます。この語には、態度を明らかにしない、責任の所在をぼかす、という評価的な含みがあるからです。状態の記述であるはずのものが、いつのまにか非難になっている。現代中国語の同じ二字は、男女間の微妙な関係を指す方向へ寄っているとも言われます。字が共通していることは、意味が共通していることを保証しない。漢字圏の語を扱うときに、いちばん足をすくわれやすい場所です。借りた字が、借りた先でそれぞれ別の含みを育てていく——同じ形をした語ほど、対照は慎重に行う必要があります。

書き手の実務に落とすと、ここは分岐点になります。人物の返答がはっきりしないとき、それは複数に読める答えを返したのか、程度の指定を避けたのか、態度そのものを保留したのか。三つは別の演出です。一つ目なら、あとで誤解が発生して物語が動く。二つ目なら、読者は判断を宙吊りにされる。三つ目なら、その人物の性格の情報になる。一語で済ませられてしまうからこそ、書く前にどれかを決めておく必要がある。決めておけば、次の場面で回収すべきものが自動的に決まります。誤解なら訂正の場面、宙吊りなら解決の場面、保留なら態度を示す場面。決めずに書いた不確かさは、たいてい読者に届く前に消えます。

文: hakadoru.ai 編集部

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