一層

【いっそう】副詞

使い分けの視点

「ますます」は変化の継続、「ひときわ」「ひと際」は周囲との比較、「格段に」「段違いに」は差の大きさを示します。「輪をかけて」「拍車をかけて」は増幅の勢いまで含みます。一層はすでにある状態へ一枚重ねる語なので、何と比べて増したのかを直前に置くと、強調だけが空回りしません。

同義語

同品詞の類義語

ますます
ひときわ文芸的
格段に
ぐっとcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

輪をかけて文芸的
拍車をかけて文芸的
段違いにcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

ひと際文芸的
弥が上にも文芸的
ぐんとcolloquial

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

基準を先に置くエッセイ関連

例文: 基準を先に置くことで、昨日より濃くなった湖の色が異変として伝わった。

一枚を重ねるエッセイ関連

例文: 雪雲が一枚を重ねるたび、森は輪郭を失っていった。

二層とは言えない——凍結した一枚

挨拶文の常套句に「より一層のご支援を」という形があります。落ち着いて眺めると、これは重複です。「より」も、この副詞も、すでにある状態からの増分を示す語だからです。それでも冗語として排除されることはなく、式辞でも広告でも普通に使われています。重ねても不自然にならないのは、片方の増分の感じがすでに薄れている証拠でしょう。摩耗した語に同じ意味の語をもう一つ被せて補強する動きは、日本語の程度副詞にはよく起きます。

面白いのは、数のほうが動かないことです。層という字は積み重なりを表し、建物の階も地層も同じ字で数えます。ところが程度を言うこの用法では、二層とも三層とも言えません。同じ構えの「一段と」も、二段とは言いません。「ひとしお」は染物で布を染液に浸す回数を数えた語だと説明されることが多いのですが、こちらも二入とは言いません。程度を表す語になった時点で、数える機能のほうが落ちています。

つまりこの語が写し取っているのは、積層の全体像ではなく、一枚を足すその瞬間だけです。何枚積んであるかは問われません。いま重ねた一枚があるかどうかだけが問われます。空間から程度への写像として見れば、写されているのは高さではなく増分の単位のほうだ、ということになります——厚みが増えるという身体の感覚と、程度が上がるという抽象の判断が、その一枚のところで結ばれています。音のほうも短くはありません。い・っ・そ・うと数えて四拍あります。促音も長音もそれぞれ一拍と数えますから、口語の「もっと」の三拍より一拍長く、そのぶん文の格式だけを一段上げることになります。

一枚を重ねるには、下に何かがなければなりません。だからこの副詞は、直前に基準が示されていることを暗黙の条件にしています。前の文で状態が確定しないまま程度の語だけが来ると、読者は下の層を探しに戻ります。探させる書き方が有効な場面もありますが、連載の読者は戻ってくれないことのほうが多いようです。基準を一度書いてから重ねる。順番を守るだけで、この語は空転しなくなります。仮名書きにすると同音の「一掃」と衝突するので、変換の取り違えが起きやすいのもこの語の実務上の癖です。積むはずが払われている一文は、校正では見つけにくいものです。

重ねる一枚は、抽象のままでなくてもかまいません。肩に掛かる布がもう一枚、影がもう一段濃く、遠くの足音がもう一つ——物理的な加算として書けば、副詞を使わずに同じ操作ができます。語のほうが要るのは、場面を締めて要約に入るときでしょう。一枚しか重ねられない語なのですから、一場面に一回で足ります。使用の頻度を語の数詞に合わせておくと、この副詞は最後まで摩耗しません。なお、思い切った転換を言う「いっそ」はこの語から転じたとする説があります。そうであれば、増分の語がどこかで断念の語に化けたことになります。一枚重ねるか、全部やめるか。同じ語源から二つの態度が出たという見方は、少なくとも語感の記憶には合います。

文: hakadoru.ai 編集部

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