厚い

【あつい】形容詞

使い分けの視点

「厚い」は寸法だけでなく、通しにくさや積み重なった量を表す。「どっしりした」「重量感のある」は感覚的な重さ、「嵩高い」は場所を取る量、「重層」は複数の層の構造に向く。人情には「篤い」を使い、信頼なら何年や何度の約束がその厚さを作ったかを示す。

同義語

同品詞の類義語

どっしりしたcolloquial
嵩高い文芸的
重量感のある

類義句

同品詞の慣用的言い換え

腹を割ったcolloquial
義に篤い文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

岩盤のような文芸的
絨毯のような
座布団ほどのcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

どっしりとcolloquial
丁重に
篤く文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

嵩む
重なる
肥大する文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

重層文芸的
肉付きcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

義理堅い
情に篤い文芸的
重々しい文芸的
盤石の文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

貫こうとした抵抗エッセイ関連

例文: 防音扉の厚さを数値で書かず、向こうの叫びが母音にしか聞こえない「貫こうとした抵抗」として、技師は事故記録へ残した。

「薄み」がないこと——尺度の片側だけが名詞になる

印刷所に紙を注文するとき、寸法として指定するのは重さです。一平方メートルあたり何グラムという坪量か、一定枚数あたり何キログラムという連量。実際に知りたいのは紙の分厚さなのに、直接それを言わずに別の量で代理している。慣習の問題だと片づけてもよいのですが、この迂回のしかたを見ていると、そもそもこの尺度が言語の中でどう扱われてきたのかが気になってきます。測りにくいから代理するのか、それとも、もともと直接言いにくい量なのか。

すぐ目につくのが、名詞形の偏りです。「厚み」とは言うのに「薄み」は日常語として使いにくい。同じように「高み」「深み」「重み」は成立して、「低み」「浅み」は座らない。接尾辞の「み」は、対立するペアの片側にしか付いていないように見えます。ただし単純化はできません。「弱み」「痛み」のように、上位とは言いがたい側に付く例もある。「軽み」に至っては俳論の術語で、日常語とは筋が違う。規則というより、強い傾向として扱うのが妥当でしょう。

動詞化のほうには、もっとはっきりした穴があります。薄いのほうには「薄める」と「薄まる」という他動・自動の対がそろっているのに、こちらには対応する一語がない。分厚くする、厚みを増す、重ねる——どれも複合か迂言で処理されます。減らす方向には専用の動詞が用意され、増やす方向には用意されなかった。塗料でも味でも、実際の作業として頻度が高いのは薄める側だという事情も関係しそうですが、これは想像であって根拠はありません。確かなのは、この語が動詞へ変形されにくく、状態のまま置かれる語だという点です。

もう少し確かなのは、疑問文で試したときの非対称です。「厚さはどのくらいですか」は、分厚いことも薄いことも前提にせず、ただ量を尋ねられる。ところが「薄さはどのくらいですか」と訊けば、薄いという判断がすでに入っている。尺度形容詞のペアには無標の側があり、無標のほうが名詞化して寸法そのものを代表する——長短における「長さ」、軽重における「重さ」も同じ形です。と、ここまでは整理できるのですが、無標であることを価値の上位と読むと途端に崩れます。壁がその状態であることは通行の障害ですし、面の皮について言えば非難になる。むしろ良い含みのほうは分業で切り離されていて、人情や信仰の側には「篤い」という別字が用意されました。同じ音、同じ由来と考えられるのに、表記が二股に分かれたせいで、この語の両義性は字面から見えにくくなっています。

書く側にとっての勘どころは、これが空間の語ではなく抵抗の語だという点にあります。読者が受け取っているのは寸法ではなく、通らなさ、押しても動かないこと、音が届かないこと。だから壁を書くときに数値を出しても、たいてい効きません。叩いたときの音が鈍いこと、向こう側の声が言葉として聞き取れないこと。抽象へ振った「厚い信頼」のような組み合わせも、量に置き換える比喩である以上、量が想像できる補助を要求します。何年ぶんなのか、何度の裏切りに耐えたのか。分厚さは、それを貫こうとした側から書いたときにだけ立ち上がります。

文: hakadoru.ai 編集部

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