いずれにしても
【いずれにしても】接続詞使い分けの視点
いずれにしてもは、検討を閉じる接続詞です。先に行くか行かないかといった選択肢の組を置いてから、「どちらの枝を通っても結論は変わらない」と宣言します。七拍と長いので、会話文では話者が分岐を検討し終えて顔を上げるまでの助走の時間を、そのまま写し取ってくれます。後続より先行文脈を選び取る語です。
同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
いずれにしてもは、検討を閉じる接続詞です。先に行くか行かないかといった選択肢の組を置いてから、「どちらの枝を通っても結論は変わらない」と宣言します。七拍と長いので、会話文では話者が分岐を検討し終えて顔を上げるまでの助走の時間を、そのまま写し取ってくれます。後続より先行文脈を選び取る語です。
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。
例文: どっちにしても、この傘は持っていくよ。彼女はそう言って、窓の外の雲をもう一度確かめた。
接続詞にしては長い。数えると、い・ず・れ・に・し・て・も の七拍あります。「ともあれ」の四拍、「どのみち」の四拍と比べて明らかに重い長さです。これは飾りではなく、内部に文法の部品が丸ごと埋まっていることの帰結です。「いずれにしても」を分解すると、不定の代名詞「いずれ」、格助詞「に」、サ変動詞「す」の連用形「し」、接続助詞「て」、係助詞「も」——五つの部品が並び、「どれであるとしても」という譲歩の条件節が、そっくり一語に固まっています。
句がひとかたまりの接続詞へ固まっていく過程を、文法化と呼びます。固まった内部は、もう動きません。「いずれにしました」とは言えず、時制も敬語も差し挟めません。部品の形は透けて見えるのに、活用も交替も受け付けません。琥珀に閉じ込められた虫のような状態です。これは「したがって」「ちなみに」など、動詞に由来する接続詞に広く見られる性質です。ただし完全に固まりきってはいないところも面白く、末尾の動詞部分には「〜にしろ」「〜にせよ」という命令形由来の姉妹形が並び立っています。「しろ」は口語の命令形、「せよ」は文語の命令形です。同じ構造の中で、この一箇所だけが交換可能な部品として残り、選んだ形の新旧がそのまま文体の硬さを決めます。化石の中に、まだ蝶番が一つだけ生きているような造りです。
固まりきらない理由は、もう一つあります。この語は「〜にしても」という鋳型に流し込まれた一例でもあるからです。空所に「それ」を入れれば「それにしても」、「なん」を入れれば「なんにしても」、「どっち」を入れれば「どっちにしても」。同じ型から作られた語が横一列に並び、しかも意味は少しずつずれています。「それにしても」は先行文脈を受けて驚きや不満を導き、譲歩からはむしろ離れていきました。「なんにしても」は口語寄りで、「どっちにしても」は選択肢の数を二つに限ります。空所に何を入れるかで、受ける集合の大きさも文体の位相も動く。鋳型のほうが生きているあいだ、そこから作られた語は完全な化石にはなりきれません。
統語的に面白いのは、この語が後ろではなく前の文脈に条件を課すことです。「いずれ」は「どれ」を意味しますから、受けるべき選択肢の集合——AかBか、行くか行かないか——が先に存在していなければなりません。選択肢は明示されていなくてもよく、文脈から復元できれば足ります。雨天決行かどうかを二人で言い合ったあとなら、「傘は持っていこう」に添えて自然に置けます。しかし、何の分岐も話題になっていない朝の食卓でいきなり使えば、聞き手は受けるべき選択肢を探して戸惑うはずです。文は形の上で成立しても、空転する。後続の文ではなく先行文脈の構造を選り好みする接続詞は、それほど多くありません。
埋め込まれた「ても」の働きも見ておく価値があります。逆接の仮定条件、すなわち、どの選択肢を取っても後件が成り立つという主張の型です。したがって後ろには、分岐に依存しない結論や行動が来ます。談話の中では、これが検討の打ち切りの合図として機能します。分岐の解決は保留したまま、どの枝でも変わらない部分だけを持って先へ進むという宣言です。ここでは打ち切りが文法の顔をして行われます。
置き場所にも観察の余地があります。基本は文頭ですが、「この予算は、いずれにしても年度内に使い切らねばなりません」のように、文の内側へ潜り込むこともできます。文頭から動きにくい接続詞が多いことを思えば、この自由度は目立ちます。理由はやはり内部構造でしょう。譲歩の条件節がまるごと固まったものである以上、副詞句として文中に収まる資格をまだ手放していないわけです。品詞の名札は接続詞でも、ふるまいは接続詞と副詞の境目にあります。文頭へ置けば話題の切り替えが前面に立ち、文中へ落とせば主張の一部として溶ける。読点を打つかどうかで、その差はさらに広がります。
会話文での効果は、間にあります。七拍は発音に時間がかかり、その長さ自体が結論の前の助走になります。議事録なら真っ先に削られてしまう語ですが、小説の会話では、話者が分岐の検討を終えて顔を上げるまでの時間を、この一語がそのまま写し取ってくれます。四拍の同義語に差し替えれば、その人物は考え終えるのが少し早い人になる。長さは、この語に関しては冗長ではなく資源です。削れば、間まで一緒に削れてしまいます。
文: hakadoru.ai 編集部
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