どぎつい

【どぎつい】形容詞

使い分けの視点

色の過剰には「毒々しい」「けばけばしい」「目を刺す」、内容の過剰には「露骨な」「刺激的な」が向きます。「ネオンサインのような」「毒キノコのような」は視覚像を固定し、「鼻白ませる」「吐き気を催すほどの」は受け手の反応を強く出します。対象の属性でなく、誰の許容量を越えたかを明確にします。

同義語

同品詞の類義語

毒々しい文芸的
けばけばしいcolloquial
刺激的な

類義句

同品詞の慣用的言い換え

目に毒なcolloquial
どぎまぎさせるcolloquial
露骨な

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

ネオンサインのようなcolloquial
毒キノコのような文芸的
安い芝居のようなcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

どきりとするほどcolloquial
露骨に
けばけばしくcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

目を刺す文芸的
鼻白ませる文芸的
けばつかせるcolloquial

体言的言い換え

用言を体言に変換

毒気文芸的
刺激
けばさcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

目を覆うほどの文芸的
露骨すぎる
吐き気を催すほどの文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

きついエッセイ関連

例文: 山頂へのきつい坂道を越えた隊だけが、雲の上で眠る古い駅を見つけた。

閾値エッセイ関連

例文: 警報の閾値を下げたため、観測所は小惑星ではなく渡り鳥の群れに一晩中揺さぶられた。

安い赤が来てから——閾値を申告する形容詞

一八五六年、ウィリアム・パーキンがキニーネの合成に失敗した過程で紫の染料を得た話は、化学史の入口でよく紹介されます。事実そのものは教科書的で、それだけなら通り過ぎるところなのですが、色の名前を扱っていると別の問いが立ってきます。強すぎる色を非難する言葉は、強い色が安く手に入るようになる前にも必要だったのでしょうか。非難というのは、対象が手に届くところにあって初めて成立する態度のはずです。

江戸期の衣服の色を思い浮かべると、この疑いは少し形を持ちます。天然染料で鮮やかな発色を得るには手間と原料の費用がかかり、濃い色や派手な色はそのまま財力の表示でした。度重なる奢侈の禁令のもとで、茶と鼠の細かな色名が競って作られたという話は広く知られています。そこで働いていたのは、強い色への嫌悪ではなく、強い色を持てない側の工夫です——羨望の対象を非難する語彙は育ちにくい。刺激の過剰を咎める形容詞が日常語として要るようになるには、まず誰でも買える強い色が市中に溢れる必要があります。

その条件は近代に入って一気に揃いました。合成染料が輸入され、多色刷りが普及し、戦後にはネオン管とカラー写真とテレビが加わります。彩度が安くなり、彩度が民主化されました。この語の形も、その新しい層に属しているように見えます。「きつい」に、強意の接頭辞が重ねられた形です。この接頭辞は関西方面の言い方に由来するという説があり、近代以降の口語で盛んに使われるようになったものです。もともと苦しさや険しさを言う語に、口語的な増幅装置が付いて、感覚の過剰を名指す新しい形容詞ができました。どぎつい、という語形そのものが、彩度の氾濫と同じ時期の地層から出てきています。

ただ、ここで一つ収まりの悪いものが残ります。この語は色以外にも使われます。どぎつい冗談、どぎつい言い方、といった形です。色の比喩が広がったのか、それとも刺激一般に対する語として並行して育ったのか、私にはどちらとも決めきれません。決めきれないまま眺めていると、両方に共通しているものは見えてきます。どの用法でも、この語は対象の物理的な性質を測っていません。彩度が何パーセント以上なら該当する、という線は引けません。言っているのは、受け手の許容量を超えたという一点だけです。属性の記述ではなく、閾値の申告なのです。

閾値である以上、それは時代とともに動きます。かつて目を刺したはずの色が、いまは商品棚の標準になっています。この性質は、書くときにそのまま利用できます。地の文でこの形容詞を使えば、語り手が何を過剰と見なす人間かが露出する——描写の対象ではなく、描写している側の設定が漏れます。人物に言わせれば、その人物が育った環境の彩度が推定できます。歓楽街で生まれ育った人物は、ネオンをこの語で形容しません。誰に言わせないかを決めることが、そのまま人物の輪郭を彫ることになります。

文: hakadoru.ai 編集部

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