ともあれ

【ともあれ】接続詞

使い分けの視点

「ともかく」は特定の論点を棚上げし、「なにはともあれ」「なにはさておき」は最優先の一点を拾います。「いずれにせよ」「いずれにしても」は条件が違っても結論が同じことを示し、「どっちにしろ」は口語的です。「兎にも角にも」は強調、「まあそれはそれとして」は軽い転換になります。

同義語

同品詞の類義語

ともかく
なにはともあれ文芸的
いずれにせよ
とにかくcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

いずれにしても
なんにせよ
どっちにしろcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

兎にも角にも文芸的
なにはさておき文芸的
まあそれはそれとしてcolloquial

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

未決のまま先へ進むエッセイ関連

例文: 遠征隊は遺跡の年代を未決のまま先へ進むことにし、日没前の水源確保を優先した。

放任の身振りエッセイ関連

例文: 王は反対派の主張を消さず議事録へ残し、結論だけを翌日に送る放任の身振りを示した。

決着をつけない動詞の形——Be that as it may の同類たち

英語の議論の席では、話をいったん畳むときに Be that as it may という決まり文句が置かれます。直訳すれば「それがどうであろうとも」です。動詞 be が原形のまま文頭に立つ、現代英語ではほとんど文法の遺跡のような構文で、事実を述べる直説法ではなく、仮定や願望のための接続法の生き残りとされます。論争に決着をつけず、しかし先へ進む——この用途のために、英語は動詞の特別な形をひとつ確保しているわけです。

日本語で同じ持ち場に立つのが「ともあれ」です。分解すれば「と・も・あれ」となります。「あれ」は動詞「あり」の命令形で、古典語の命令形には「そうであるにせよ、かまわない」という放任を表す用法がありました。「さもあらばあれ」の「あれ」も同じ働きです。十世紀の『土佐日記』は、「とまれかうまれ」、すなわち「ともあれかくもあれ」の縮まった形を末尾の一文に置いています。書き残せなかったことは多いけれど、ああであろうとこうであろうと、この日記は早く破ってしまおう——そう言い置いて、筆が置かれます。千年前から、この語形は幕引きの道具でした。

面白いのはここからで、他の言語をのぞくと同じ設計が見つかります。ドイツ語の wie dem auch sei、フランス語の quoi qu'il en soit も同じ型です。sei も soit も、英語の be と同じく接続法の動詞です。事実の報告に使う形から動詞をわざと外し、「そうと確定したわけではないが」という保留の印を付けます。日本語は接続法という棚を持たない代わりに、命令形の放任用法がその席に座りました。未決のものを未決のまま扱うための専用の動詞の形を、それぞれの文法が自前の道具箱から工面している勘定になります。分節の仕方は違っても、要る道具は同じだった。

だからこの語は、英訳の途中で目減りします。anyway や in any case に置き換えれば、談話を前へ進める機能は保てます。しかしあちらは口語の相槌に近く、「あれ」の一音が担っていた放任の身振り——問題はまだ解けていない、と認めたうえで棚に上げる律義さ——が抜け落ちます。訳しにくさの正体は、対応する単語がないことではなく、対応する文法カテゴリーがないことにあります。単語は辞書で補えますが、法(ムード)は輸入できません。

逆向きの翻訳を見ると、事情はさらにはっきりします。英文和訳なら、訳者はさほど迷わずこの語や「それはさておき」を選べます。ところが「何はともあれ無事でよかった」を英語へ運ぼうとすると、途端に手が掛かります。心配事の一覧をまるごと棚に上げ、無事という一点だけを拾い上げる。この優先順位の宣言を副詞句ひとつで済ませる圧縮率に、手頃な対応物が見当たらないからです。文を組み替えて「大事なのは君が無事だったことだ」とすれば意味は届きますが、あの投げやりなほど大づかみな網羅の感触は薄れてしまいます。

小説の中でこの語が立つ場所を思い浮かべると、章の後半が多いように思います。議論が出尽くし、それでも結論は出ず、しかし物語は動かなければならない地点です。書き手はそこで登場人物に無理な決断をさせる代わりに、未決を未決のまま宣言して場面を転換できます。決着をつけない技術は、ごまかしではなく作法です。千年前の日記文学が筆を置くために使った語形は、いまも同じ仕事を引き受けています。

文: hakadoru.ai 編集部

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