複雑

【ふくざつ】形容動詞

使い分けの視点

「複雑」だけでは扱いにくさの形が見えません。「絡む」は端を探して解く手順、「迷路」は出口を求める徒労、「重層」は上から剥がす順番を伴います。焦り、堂々巡り、隠れた感情のどれを読者へ渡すか決め、下敷きを一つに絞って人物の動作まで具体化します。

同義語

同品詞の類義語

入り組んだ
込み入った
絡み合った
錯綜した文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

糸のほぐれない文芸的
一筋縄ではいかないcolloquial
絡まり合った

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

蜘蛛の巣のような文芸的
迷路めいた文芸的
毛糸玉のようなcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

入り組んで
こんがらがってcolloquial
重層的に文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

絡み合う
もつれるcolloquial
入り組む

体言的言い換え

用言を体言に変換

錯綜文芸的
文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

一言では言えないcolloquial
ねじれたcolloquial
輻輳した文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

結び目として捉えるエッセイ関連

例文: 探偵は事件を迷路でなく結び目として捉えることで、最初に引く端を見定めた。

指が端を探している——絡み・道・層という三つの下敷き

鞄の底で絡まったコードを取り出すとき、手が最初にすることは決まっています。端を探す。指先が塊の表面をなぞり、飛び出している一本を見つけ、そこから引く。引いて締まったら戻し、別の端に移る。この数十秒のあいだに手が行っている処理は、抽象的な難問に向き合うときの頭の動きと、驚くほどよく似た形をしています。似ているというより——後者を語る言葉が前者から借りられている、と言ったほうが正確です。借用は一語ずつではなく、動作と手順の束ごと運ばれてきます。

認知言語学では、抽象的な領域を語る語彙が、身体経験の領域から体系的に写し取られていると説明されます。単発の比喩ではなく、対応関係が束になって移る点が要点です。もつれる、ほどく、筋が通る、一筋縄ではいかない。これらは糸という一つの物理的対象に関する語彙が、そっくり理解の領域へ移された結果として並んでいます。移されているのは語だけではありません。端から順に引けばいずれ解けるはずだ、という期待までが一緒に運ばれてくる。理解できるはずだという楽観は、この写像に付いてきた副産物なのかもしれません。

下敷きはもう一つあります。道です。入り組む、込み入る、迷う、行き詰まる。糸の場合は端点を探しますが、道の場合は出口を探す。どちらも線と経路という共通の骨格を持ちながら、探す対象が違い、失敗の形も違います。糸で失敗すると締まって固くなり、道で失敗すると同じ場所へ戻ってくる。人物の思考の行き詰まりを書くとき、この二つのどちらを下敷きに選ぶかで、読者が受け取る身体感覚は変わります。締まっていく感触と、堂々巡りの感触は別のものです。前者には焦りが、後者には徒労が付いてくる。

漢字の側にも三つ目の手がかりがあります。この語の一字目は衣を意味する部首を持ち、重ねる、という意味を古くから担ってきました。重なりは絡みでも経路でもなく、層です。層のメタファーには深さの軸があり、上から順に剥がすという手順が付属します。心境について使われるとき、この語が絡みや迷路よりも層に近い像を結ぶのは、そのためだと考えられます。喜びの下に安堵があり、その下に後ろめたさがある。順序が固定されていて、同時には見えない。糸や道と違って、層は解けもしなければ抜けもせず、ただ順番に露出するだけです。

工学の図面に目を移すと、同じ像が実装されているのが見えます。回路図や依存関係の図では、線の交差数や結線の密度がそのまま扱いにくさの目安になり、設計者は交差を減らす方向へ図を描き直す。抽象を線の絡みとして可視化し、絡みを解くことで抽象を扱いやすくする——比喩が作業手順にまで固まった例です。実作へ持ち帰るなら、この語を地の文に置いたまま済ませないこと。人物が何を引こうとして何が締まったのか、どの層まで剥がれてどこで止まったのか。下敷きを一つ選んで具体化した瞬間に、抽象語だったものが動作に変わります。三つのうちどれを選ぶかは、その人物が最後に何を諦めるかによって決まる。

文: hakadoru.ai 編集部

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