涙する

【なみだする】動詞

使い分けの視点

「涙する」は声や経過を抑え、目に見える結果へ寄る書き言葉です。「泣く」「嗚咽する」は動作の幅を、「目を潤ませる」「涙ぐむ」は始まりを示します。感情が決壊する場面より、声を出せない立場で抑えていたものが漏れる瞬間に置くと、冷静な語形と状況が釣り合います。

同義語

同品詞の類義語

泣く
むせぶ文芸的
咽ぶ文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

頬を濡らす文芸的
目を潤ませる
袖を絞る文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

露が置くような文芸的
雨に濡れるような文芸的
珠を散らすような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

しみじみと文芸的
はらはらと文芸的
ほろりと

体言的言い換え

用言を体言に変換

悲嘆文芸的
哀傷文芸的
愁思文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

感極まる
込み上げる
胸を詰まらせる

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

声を出せない場所エッセイ関連

例文: 判決を聞く声を出せない場所で、母の目にだけ熱いものが浮かんだ。

ねじれて出る水——字と語形が抱えている抑制

旧字体では「淚」と書きました。右側にあるのは「戾」で、戸と犬を組み合わせた字です。犬が戸のわずかな隙間から、身をよじるようにして抜け出る——字書ではそう説明されることが多く、そこから「ねじれる」「そむく」といった意味が生じたとされています。水を示す偏と結ばれたこの字が指しているのは、素直にまっすぐ落ちる水ではありません。ねじれ、絞り出されるようにして出てくる水です。常用漢字表が採った字形では右側が「戻」に整理され、犬が大に変わったため、この由来はもう字面からは読み取れなくなりました。字源説には異説もあって一つに決めることはできませんが、部品の選び方に「抑えられていたものが漏れる」という含みが仕込まれている点は、この語の後のふるまいと無関係ではないように見えます。

和語のほうの来歴は、漢字よりさらに不確かです。古くは清音で「なみた」だったとする見方があり、濁音化は後のことになります。語源については複数の説が出されてきましたが、どれも決定打を欠いています。参考になるのは、目の古い形が「ま」であったことで、これはまなこ、まぶた、まつげといった複合語に痕跡が残っています。「なみだ」の頭を目と関係づける説も昔から提出されてきたものの、定説にはなっていません。ただ、どの説を取っても共通しているのは、これがもともと器官と液体をめぐる名であって、感情の名ではないという点です。悲しみという意味は、あとから付いてきた。名詞の段階では、まだ何も語っていない語なのです。

そこに「する」が付くと、事情が変わります。和語の名詞にサ変動詞が直結する型は、日本語ではかなり限られています。漢語なら感動する、落涙する、と際限なく作れるのに、和語では恋する、旅するあたりでほぼ尽きてしまう。文語のサ変が残した痕跡であり、生産性をとうに失った古い型です。使える語が少ないということは、使った瞬間にその型自体が目立つということでもあります。日常会話からわずかに浮くのは、意味のせいではなく、この語形のせいです。同じ内容を運ぶ言い方はいくらでもあるのに、これだけが書き言葉の側に留まっている。

「泣く」と並べると差がはっきりします。泣くは声を含みうる動詞で、しゃくり上げも嗚咽もその内側に入る。主語の内面に踏み込み、動作として時間の幅を持ちます。対して涙する、が述べているのは目に見える結果だけです。声は消え、経過も省かれ、頬に水が伝ったという一点だけが残る。だから三人称の観察に向きます。派生形を見ると差はさらに明瞭で、涙ぐむ、の「ぐむ」は芽ぐむ、汗ばむと同類の接尾語であり、その状態が生じ始める段階を名指します。量が閾値に届かないところを指す語がすでにある以上、隣の語は自然と、届いてしまった後を引き受けることになる。

字が抱えていた「ねじれて絞り出される水」という像と、語形が背負った書き言葉らしさは、方向が揃っています。どちらも噴出ではなく抑制の側にある。感情が決壊する場面にこの語を置くと、語のほうが場面より冷静になってしまい、温度が合いません。逆に、泣いてはいけない場所で目だけが濡れる場面——葬儀の受付、判決の言い渡し、他人の結婚式——では過不足なく働きます。選ぶかどうかの判断は、その人物が声を出してよい立場にいるかどうかで決まります。

文: hakadoru.ai 編集部

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