掴む

【つかむ】動詞

使い分けの視点

「掴む」は対象へ力を及ぼし、「掴まる」は支点へ依存します。「握る」は包み込む手、「捕らえる」は逃走を止め、「会得」は技能を得ます。物体は手を離せますが、コツを掴んだ能力は残ります。

同義語

同品詞の類義語

握る
捕らえる文芸的
攫う文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

手中に収める文芸的
手に入れる
指に収める文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

鷲が爪で獲物を捕えるような文芸的
網を絞るような文芸的
蛇が巻きつくような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

素早く
がっしりとcolloquial
確と文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

把握
会得文芸的
捕獲文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

手中に引き寄せる文芸的
核心を押さえる
要を制する文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

掴まるエッセイ関連

例文: 揺れる飛行船で少女は友の腕に掴まる。

ヲとニのあいだ——吊革を掴む、吊革に掴まる

電車が揺れて、乗客が吊革へ手を伸ばします。この動作を日本語で書くとき、少なくとも二通りの言い方が用意されています。吊革を掴む。吊革に掴まる。手の形も、指にかかる力も、外から見れば同じです。違うのは助詞だけで、ヲ格は吊革を動作の及ぶ先として差し出し、ニ格は同じ物体を自分を支える点として扱う。ひとつの物理現象が、格の選択によって二通りに切り分けられているわけです。どちらが正しいという話ではなく、何を前景に置くかの違いになります。

この語の周囲には、形の近い動詞が三つ並んでいます。掴む、掴まる、掴まえる。日本語の自動詞と他動詞には音形の対応に一定の傾向がありますが、意味の対応は語ごとにずれます。「掴まる」はニ格をとって支えの意味になる一方で、「犯人が掴まる」のように捕らえられる側を主語にする用法も持っている。支えることと捕縛されること——力の向きが正反対の二つが、同じ語形に同居しています。使役の「掴ませる」に至っては、金品を渡して黙らせるという慣用が別に育ちました。整った体系というより、使われながら形が寄り集まった結果だと考えられます。

受身にすると、骨組みがもう一段見えます。腕を掴まれた、という言い方では、掴まれたのは腕なのに、主語の位置に立つのは人のほうです。持ち主が被害の受け手として前へ出てくる型で、日本語はこの形を好みます。私の腕が掴まれた、と身体の部分を主語に据えると、同じ出来事が調書のように読める。被害を語りたいのか、事実を記録したいのかが、主語をどちらに立てるかで分かれるわけです。もうひとつ気づくのは、受身にしてもヲ格の腕は動作の及ぶ先という役割を保ったまま、文の中心からだけ外れることです。格の役割と、文の中での目立ち方とが、別々の仕組みとして動いています。

目的語の側にも段差があります。吊革、腕、襟。ここまでは手で触れられる物体です。ところが同じ格枠に、コツ、要領、機会、人の心が入る。抽象名詞を置いても文は壊れません。ただし時間の構造は変わります。「吊革を掴んでいる」は動作の結果が続いている状態で、手を離せば終わる。「コツを掴んでいる」は獲得された能力の状態で、意志で手放すことができない。同じ「〜ている」でありながら、解除できるかどうかが違う。比喩は動詞の格枠を借りますが、アスペクトまでは借りていない、ということになります。

可能の形にすると、格そのものが入れ替わります。コツを掴む、はコツが掴める、になる。対象を示していたヲ格が、可能形の下ではガ格に立てるようになる。この交替はこの動詞に固有のものではなく、日本語の可能表現に広く見られる現象ですが、抽象名詞を目的語に取れるこの語では、交替の前後で重心まで動きます。掴めるという形が述べているのは、行為の実現ではなく、主体の側に備わった能力のほうです。だから、吊革が掴める、と書けば手が届くかどうかの話に読まれ、握力の話にはならない。可能形は動作を主体の属性へ変換する装置で、変換のたびに、誰が何にどう力を加えたかという情報が一段ずつ抜け落ちます。抜けた情報は、たいてい副詞では戻りません——能力の話に変わってしまった文へ「必死に」を足しても、必死な能力という妙なものが出てくるだけです。人物が何かを掴めるようになったと書きたいのか、いま掴んだと書きたいのか。時制ではなく態のほうで、書き手はそれを決めています。

派生形をたどると、格という骨組みが少しずつ外れていくのが見えます。「掴みかかる」は相手にニ格で向かい、ヲ格の目的語を失う。「掴み取る」はヲ格を保ったまま結果の含みを足す。連用形が名詞化した「掴み」は、演芸で冒頭のひとくだりを指す語として定着していて、ここではもう対象を取りません。動詞から遠ざかるにつれて、誰が誰に何をするかという情報が抜け落ちていく。名詞化とは、格の情報を捨てる操作でもあります。

書く側に返すと、力関係は形容詞ではなく助詞で決まります。「腕を掴んだ」と「腕に掴まった」を並べれば、主体の立場が逆転する。前者は相手を制し、後者は相手に依存している。取り乱した人物を書こうとして「必死に」「強く」と副詞を足す前に、まず格を確かめたほうがいい。骨組みが正しく組めていれば、装飾はほとんど要らないことがあります。逆に骨組みが違っていれば、どれだけ副詞を積んでも、読者は書き手の意図した力の向きを受け取りません。

文: hakadoru.ai 編集部

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