投げる

【なげる】動詞

使い分けの視点

「投げる」は腕の振りと手離れまでを示し、着地点を空けます。「放る」は軽さ、「投擲する」は競技・戦闘の硬さ、「放擲する」は責務まで捨てる含みです。飛んだ後を書くかは場面の焦点で決めます。

同義語

同品詞の類義語

放るcolloquial
投擲する文芸的
放擲する文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

宙に放つ文芸的
手を離して飛ばすcolloquial
空中に送る

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

礫を飛ばすような文芸的
鳥を放つような文芸的
石を水面に飛ばすような

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ぽいとcolloquial
勢いよく
力任せに文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

投擲文芸的
一擲文芸的
放りcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

腕の勢いで飛ばす
手から放つ文芸的
空へ送り出す文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

手離れの一瞬エッセイ関連

例文: 手離れの一瞬だけを見て、弓兵は槍の行方を読んだ。

手偏に殳——打つ手から離す手へ

「投」という字の右半分は「殳」です。この部品を含む字を並べてみると、殴、殺、段と、打撃に関わるものが目につきます。殳は手に何かを持って打つ形に由来するという説明が広く行われていて、その説に立てば、この字はもともと腕を振り下ろす動作の圏内にありました。手から離れて飛んでいく段階よりも、腕を振るう段階のほうが先に字義の中心にある。日本語で読み下すときにこの字が担うのは飛翔ですが、字形が記憶しているのは、飛ばす前の振りかぶりのほうだったことになります。

和語の側をさかのぼると、上代の「なぐ」という下二段動詞に行き着きます。この語形は、複合語の中に化石のように残りました。なげうつ、という語は「なぐ」の連用形に「うつ」が付いたもので、放り出すことと打つことがそこで一語に固着している。漢字の字源と和語の複合が、別の道筋をたどって同じ場所——投げることと打つことの近さ——に着いているのは、偶然かもしれませんが、身体の動きとしては自然です。腕の振りは共通していて、最後に指を開くかどうかだけが違う。

ここで一つ、まぎらわしい語があります。嘆くという語を「なげく」と読むところから、投ぐと同源だとする説明を見かけることがありますが、嘆くのほうは「長息」に由来するとする説が有力とされています。息を長く吐く動作の名づけであって、腕の動作とは系統が違うと考えられている。語源の話には、音が似ているだけの語を親子に仕立てたくなる引力が常にあり、この対はその引力が強く働く例です。断定を避けて、複数の説があるとだけ言っておくのが安全でしょう。

複合語の作られ方を眺めると、この動詞が日本語の中でどれだけ働き者だったかが見えてきます。前項として立てば、投げ出す、投げ捨てる、投げ返す、投げ込むと、後ろにほとんどの移動動詞を連れてこられる。後項として立てば、放り投げる、ぶん投げる、と勢いを添える役に回る。前後どちらにも置ける動詞は、意味が単純で、かつ動作の一部分しか記述しないものに偏ります。この語が記述するのは腕の振りと手離れまでで、その先は空いている。空いているからこそ、後続の動詞が行き先を書き足せる。

現代の語形が「なげる」になったのは、中世から近世にかけて起きた活用の整理によります。下二段活用が下一段へ移る大きな流れがあり、受く、告ぐ、離る、といった動詞がそろって現在の形になった。この整理は語の意味を変えませんでしたが、命令形の姿を変え、結果として口語の呼吸を変えています。近世以降の口語で、この語が命令形として単独で発せられる場面が増えるのは、その形が短く言い切れるようになったことと無関係ではないはずです。

漢語の側の広がりも見ておく価値があります。投宿は宿に身を寄せること、投票は札を箱へ入れること、投資は資を差し向けること。いずれも、放り出すというより「あるところへ身や物を向けて入れる」という方向づけの意味で使われています。和語のほうが手離れの一瞬を指すのに対し、漢語の複合は着地点まで含んでいる。この非対称は、書くときにそのまま効いてきます。和語で書けば、飛んでいく物の行方は宙に浮いたままになる。どこに落ちたかを書かずに済ませられるのは、この語がもともと始点しか記述しないからで、行方を書くかどうかは、そこから先の作者の判断になります。

文: hakadoru.ai 編集部

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