飛ぶ

【とぶ】動詞

使い分けの視点

飛行の経路、速度、浮遊のどれを見せるかで選びます。「翔ける」「飛翔」は高みへ向かう格調を、「空を切る」「駆け抜ける」は速さを、「舞う」「ひらひらと」は風に任せる軽さを帯びます。助詞が経路か着点かを決める点も意識します。

同義語

同品詞の類義語

翔ける文芸的
舞う文芸的
駆ける

類義句

同品詞の慣用的言い換え

空を切る文芸的
宙を往く文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

矢のような文芸的
鳥のような
流星のように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ひらひらと
宙を切って文芸的
風に乗って

体言的言い換え

用言を体言に変換

飛翔文芸的
空中移動

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

宙を舞う文芸的
翔る文芸的
駆け抜ける

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

飛び立つエッセイ関連

例文: 雛鳥は雨の切れ間を待ち、崖の巣から飛び立つ。

空「を」の一字——目的語ではない助詞のこと

「空を飛ぶ」という言い方の、真ん中の一字が気になり出すと止まらなくなります。ヲ格が付いているのに、空は動作の対象ではない。飛ぶことによって空が何かされるわけではないからです。文法の説明としては、これは移動の経路や通過する場所を示すヲ格で、「道を歩く」「橋を渡る」「峠を越える」と同じ仲間だとされる。自動詞がヲを取る、日本語ではありふれた構文です。

ありふれてはいるのですが、他の性質と噛み合わない点がある。ふつうヲ格を取る文は受身にできます。ところがこの構文は、受身にすると急に据わりが悪くなる。経路のヲは、格の形だけを対象と共有していて、その先の変形の権利は共有していない。形が同じでも中身が違うことを、こういう場所で確かめられる。

同じ動詞は、ヲ以外の枠も持っています。「現場に飛ぶ」「東京へ飛ぶ」と言えば、示されるのは経路ではなく着点です。経路を取る枠と着点を取る枠が同じ語形に同居していて、しかも両方を同時には言いにくい。飛ぶという出来事の、どの側面を切り出すかを助詞が決めていて、動詞のほうは中立に構えている。動詞が意味を持ち、助詞がそれを運ぶ、という素朴な分業観が、ここでは通用しません。

時間のふるまいも見ておきます。「飛んでいる」は進行中の解釈にしかならない。空中にある状態が続いている、という結果の読みは出てこない。ところが「飛び立っている」になると、離陸という一瞬の出来事が済んだ後の状態として読める。同じ語幹から作られた複合語が、時間の型を切り替えてしまう。複合の後ろに付いた成分が、前の成分の性質を上書きしている——この上書きの強さは、書いていると案外はっきり手応えとして返ってきます。

対になる他動詞を並べると、対応の綻びが見えます。「飛ばす」は形の上ではこの動詞の他動詞形ですが、意味の範囲が一致しない。紙飛行機を飛ばすのは対応していると言えるにしても、章を飛ばす、順番を飛ばす、デマを飛ばす、というあたりになると、自動詞側に対応する用法がありません。飛ばされた章が飛んだ、とは言えるとしても、それは別の出来事の描写です。自動詞と他動詞の対は、たいてい教科書では一対一の表に整理されますが、実際には片側だけが意味を増やして、対応が欠けたまま放置される。表の空欄のほうが、埋まった欄より事情を語っている。

意味が広がった先では、活用の許される範囲まで変わる。「ページが飛ぶ」「話が飛ぶ」「ヒューズが飛ぶ」。これらの主語は意志を持たないので、意志形にも命令形にも立てられない。飛ぼう、と言えるのは、自分の足で跳ぶ人と、自分の翼で行く鳥と、便に乗る人だけです。語形は一つなのに、活用表のうち使える欄が意味ごとに違う。辞書の見出しは一行でも、実際の運用ではいくつもの下位区分が走っている。

書き手の側から見ると、この語の利点は短さです。二拍で、濁音を含み、言い切りの形が締まる。文末に置けば文が閉じ、文中に置けば速度が上がる。長い一文の終わりに置くと、それまでの緩みが一気に回収される。助詞の選択で意味の側面を決め、拍の少なさで文の速度を決める。両方を同時に握れる語は、思ったより多くありません。

文: hakadoru.ai 編集部

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