奇妙

【きみょう】形容動詞

使い分けの視点

「奇妙」は、まったく異なるものより、ほぼ同じ規則の中に一点だけある破れを描くと効きます。揃っている側を先に示し、外れた箇所を後から置けば、評価語に頼らず違和感を作れます。比較軸のない強調は避け、観察可能なずれを選びます。

同義語

同品詞の類義語

異様な文芸的
妙ちきりんなcolloquial
奇抜な
一風変わったcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

見慣れない
違和感の漂う
眉をひそめる

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

歪んだ鏡に映ったような文芸的
狂言回しの仮面みたいな文芸的
別世界の住人のようなcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

妙にcolloquial
そこはかとなく文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

違和感を覚える
眉根を寄せる文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

違和感
異相文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

座りの悪いcolloquial
背筋を擽る文芸的
歯車が噛み合わないcolloquial

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

規則の破れエッセイ関連

例文: 整然と並ぶ靴のうち一足だけ左右が逆で、その規則の破れが調査員を玄関へ引き戻した。

ほとんど同じ、が一番ずれて見える——距離では測れないずれ

ほとんど同じであることが、いちばん強い違和感を生みます。まったく別物なら、人はそれを珍しいと呼ぶだけで済ませる。ところが見慣れたものと九割九分まで一致していて、一点だけ噛み合わないとき、目はその一点に貼りついて離れなくなります。玄関の靴がすべていつもどおりに並んでいて、一足だけ左右が入れ替わっている。この状況を数として書くと妙な形になります。特徴を並べたベクトルどうしの差を取れば、ずれている成分は一つだけなので、二乗和の平方根で定義される距離は小さい。距離が小さいのに、反応は大きい。

そこで距離の定義に戻ってみます。ユークリッド距離は各成分の差を等しく扱い、それらを足し合わせて一つの数にまとめる仕組みです。まとめる、というところに答えの半分があります。多数の成分が一致していれば、一つくらい外れても総和は小さいままになる。つまりこの尺度は、全体としてどれだけ離れているかは測れても、一点だけ外れているという構造は測れません。ロボットの外見について不気味の谷という言い方が提唱されたことがありますが、あの図の谷底も、遠さではなく近さの側に現れます。奇妙さが距離の関数でないなら、何の関数なのか——おそらく、一致している成分の多さと、外れている成分の際立ちの、両方が要る。

もう一つ、この語は対称性の言葉で捉え直せます。数学で対称性とは、ある操作を加えても変わらない性質のことです。玄関に並んだ靴は、どの一足を取り出しても左右の対という同じ規則が当てはまる——その意味で対称です。一足だけ左右が入れ替わると、規則そのものは残ったまま、一箇所でだけ成り立たなくなる。全部が崩れていれば規則は読めなくなり、破れも見えません。つまり規則が生きていることが、破れが見えるための条件です。奇妙さの成立には、外れた一点だけでなく、外れていない側が規則として読めていることが要ります。

もっとも、これを言い切ると反例が出ます。同じ軸の上でなら程度の比較はきちんと成り立つ。靴の乱れ方であれば、一足の左右が逆なのと、三足の左右が逆なのとでは、後者のほうが奇妙だと迷わず言える。ところが軸をまたぐと比較は壊れます。左右の入れ替わった靴と、秒針だけが逆回りに動く時計と、どちらがより奇妙かは決められない。破れの個数は数えられても、破れの種類のあいだに順番は入らないのです。そしてこの語を使う人は、たいてい軸のほうを指定していません。

だから小説で「奇妙な部屋だった」とだけ書くと、読者は計算を始められません。何と何が一致していて、どの一点が外れているのかが与えられていないので、距離も順序も定義できない。逆に、揃っている側を先に丁寧に書いておけば、外れた一点は指し示すだけで効きます。家具の配置も、日の差し方も、埃の積もり方も前の週と同じで、椅子だけが半歩ぶん壁から離れている。奇妙さを説明する語は要らず、必要なのは一致の量を読者に手渡しておくことのほうでした。

文: hakadoru.ai 編集部

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