計画の費用を議論している途中で、「そもそも、この計画は必要なのか」と問う人がいます。話題を一段前へ戻し、共有されていた前提そのものを開き直す表現です。英語では in the first place が近い場合もありますが、originally、to begin with、after all などへ分かれることもあります。時間的な起源を尋ねるのか、論理的な前提を疑うのか、非難を強めるのかで訳語は変わります。
日本語の一語へ英語の定型を貼る前に、「最初」が時間軸を指すのか議論の階層を指すのかを判断する必要があります。
「そもそも彼らは友人だった」なら、もともとの関係を述べる originally が自然かもしれません。「そもそも、なぜ来たの」は理由の根本を問い、why did you come in the first place のような形になります。質問でなく説明文なら、to begin with が段落の起点を作ります。訳語の品詞や位置も異なるため、接続詞だけを置換せず文全体を組み替えます。
英語側の after all は、既知の理由を思い出させる用法も強く、日本語と常に一致しません。対応候補の重なる部分と外れる部分を分けます。
この語は反論を強くすることがあります。「遅刻を責めるが、そもそも時刻を聞いていない」と言えば、個別の責任より前提の不備を示せます。翻訳で merely originally とすれば、その論争的な力が消える場合があります。on what grounds や the real question is など、文脈に応じて機能を展開する方法もあります。一語を一語で訳さないことが、かえって原文の発話行為を守ります。
字幕では字数制限から省かれやすい部分ですが、削ると人物が議論の土台を拒む姿勢まで失われることがあります。
反対に、訳文で毎回 in the first place を明示すると、原文以上に攻撃的な反論へ聞こえる場合があります。目的言語では語順や声の調子だけで前提回帰が伝わることもあります。残すか省くかは情報量だけでなく、発話の対人圧力を比較して決めます。
反復形の「そもそも」は、古風さや強調を帯びながら現代会話にも残ります。英訳で過度に古風な形式を選べば、原文にない時代色を足すことになります。逆に軽い well だけでは、根本へ戻る論理が弱まります。対照言語学では、語の古さを辞書の年代だけでなく、現代の媒体と話者がどう感じるかまで比べなければなりません。
翻訳文の人物が論文調なのか、口論の最中なのか——自然な訳は、その人物が別言語で選ぶ使用域から決まります。
創作で使うと、議論をリセットする力があるぶん、多用すれば話が進みません。人物が不利になるたび根本論へ逃げるなら、論点ずらしとして描けます。一度だけ置き、見落としていた前提を正しく開けば、物語の方向を変える発見になります。翻訳候補を並べる作業は、この発話が起源説明か、前提批判か、責任追及かを選び直す試験です。
最初へ戻ることは後退とは限らない。別言語で何を「最初」と呼ぶかを確かめると、議論が立っていた床の高さまで見えてきます。