相当
【そうとう】副詞使い分けの視点
「相当」は客観的に見える漢字表記の中に、話者の物差しを隠した程度語です。口調の近い「かなり」、驚きの混じる「ずいぶん」、容易でない評価にも使える「なかなか」と分けます。何と比べて大きいのかが見える場面で使うと、誇張になりません。
同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
「相当」は客観的に見える漢字表記の中に、話者の物差しを隠した程度語です。口調の近い「かなり」、驚きの混じる「ずいぶん」、容易でない評価にも使える「なかなか」と分けます。何と比べて大きいのかが見える場面で使うと、誇張になりません。
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。
例文: そうとう疲れた声で帰宅を告げた兄に、妹は黙って汁を温めた。
ひとつの原稿の中に「相当な数の兵が」と「そうとう疲れている」が同居していることがあります。どちらも誤りではありません。程度を表す副詞は、漢字表記と仮名表記のあいだで最も揺れやすい品詞のひとつで、書き手自身が無意識に使い分けていることも多い。地の文では漢字、会話文では仮名、という無自覚の傾向を持っている人もいます。揺れているのに気づかないのは、どちらでも読めてしまうからです——読めてしまう語ほど、設計の余地が残っている。
この揺れは字種の制限から来るものではありません。問題の二字はどちらも日常的に使われる字で、書けないから仮名にするわけではない。むしろ隣接する語と並べると事情が見えます。かなりには、対応する漢字表記がそもそも定着していない。随分、結構、中々は漢字でも書けますが、現代の小説の地の文ではほとんど仮名で見かけます。程度副詞は、書けても書かない方向へ流れてきた語群だと言えます。同じ書き手が、名詞や動詞では漢字を選びながら副詞だけ仮名へ落とすのは、規範を守っているというより、行の見え方に反応しているのだと思われます。
仮名にひらくと、もう一つ消えるものがあります。語の出自です。そうとう、ずいぶん、けっこうは漢語で、かなり、やたら、とてもは和語ですが、仮名で四拍や三拍に開かれてしまえば、その区別は表面から見えなくなる。漢字二字が残っているあいだ、読者はその語を漢語の側の語彙として受け取り、文の硬さを一段上げて読みます。開いた瞬間に、その語は和語の程度副詞と同じ列に並ぶ。文章の格式をどこで決めているのかと考えると、語の選択より先に、語種が見えるかどうかで決まっている部分がかなりあります。仮名にひらくのは、意味を変えずに硬さだけを落とす操作でもあるわけです。
仮名にひらく実利もあります。この二字は品詞をまたぐ。名詞としても、動詞の語幹としても、形容動詞の語幹としても、そして副詞としても働きます。漢字で書かれた時点では、読者はどれか決められません。「相当な負担を強いた」と「相当の額を支払った」と「相当に困っていた」では、二字の直後に来る一音でようやく所属が確定します。読解は左から右へ進むので、確定が一音遅れるということは、その一音ぶん判断が保留されるということです。仮名にひらいた場合、この保留はほぼ消えます。仮名書きの形は副詞用法へ強く偏っているからです。表記の選択が、統語の曖昧さを前もって片づける装置になっている。
もうひとつは視覚の話です。日本語の行は、漢字の分布によって濃淡ができます。名詞と動詞の語幹に漢字が集まるので、副詞まで漢字にすると黒い部分が連続し、どこが山なのか見えなくなります。とくに漢語の名詞が続く一文では、副詞の二字が加わることで四字も六字も漢字が並び、視線が滑らなくなる。副詞を仮名へ落とすのは、行の中に余白を作って隣の名詞を立たせる操作でもあります。読みやすさというより、強調をどこに配分するかという設計の問題です。
一方で、この二字がまったく開かれない場所もあります。法令や契約の文面です。相当の期間、これに相当する額、相当因果関係——どれも漢字で書かれ、仮名になった例を見かけません。制度の文書が扱っているのは程度ではなく、釣り合う・対応するという原義のほうで、そちらは動詞や名詞の用法として働いています。読み違いを許さない文書ほど、品詞が確定する表記を選ぶ。日常の文章が仮名へ流れるのと、法令が漢字に留まるのは、同じ判断の裏表です。前者は副詞であることを早く伝えたくて開き、後者は副詞に読まれては困るから閉じている。表記の統一という言葉は、しばしば几帳面さの問題として語られますが、実際に守られているのは解釈の幅のほうです。文書の性格が変われば、守るべき幅も変わる。だから小説の表記を法令の基準で決めても、うまくいきません。守る対象がそもそも違うからです。
正解の表記はありません。あるのは一貫性だけです。作品ごとに小さな台帳を作り、迷った語をその都度書きつけていく。同じ語が第三章と第十七章で違う姿をしていても、読者はたいてい指摘しませんが、読み進める速度は確実に落ちます。落ちた分は感想には現れず、離脱の位置にだけ現れる。台帳の項目が二十を超えるころには、その作品の地の文の濃さが、書いている本人にも見えるようになります。見えたところで、はじめて例外を作る判断ができます。
文: hakadoru.ai 編集部
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