あるいは

【あるいは】接続詞

使い分けの視点

あるいはは破裂音も摩擦音も持たない、気流を塞き止めない音だけでできた選言です。平叙文の書き言葉で選択肢を並べても角が立たず、文頭に置けば「ひょっとすると」に近い揺れを導く副詞の仕事も引き受けます。硬く切りたいならまたはやもしくは、揺れを残したいならあるいはと、意味がほぼ等価なところで拍数と音色によって選ぶ余地のある接続詞です。

同義語

同品詞の類義語

もしくは
または
ないし文芸的
それともcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

ひょっとすると
場合によっては

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

もしかしてcolloquial
ともすれば文芸的
見方を変えれば

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

もしかしたら

例文: もしかしたら、と彼は言ったきり、窓の雪を見ていた。答えはもう要らなかった。

ひょっとしたら

例文: ひょっとしたら、もう列車は来ないのかもしれない。駅長はランタンを吹き消した。

破裂音を持たない分岐——選言の接続詞を音で選ぶ

声に出して比べてみます。または。もしくは。あるいは。三つの語は、論理の上ではほぼ同じ選言を表しますが、口の中で起きていることはまるで違います。「または」は舌先を歯茎で破裂させる t を含み、「もしくは」は鼻音の m、摩擦の sh、奥で破裂する k と子音が忙しい。それらに対して「あるいは」だけは、破裂音も摩擦音も持ちません。舌先が軽く弾く r と、助詞「は」の読みである半母音の w——気流を一度も塞き止めない音だけでできています。

母音の設計も見ておきます。四拍の母音列は a-u-i-a。大きく開いた a で始まり、u ですぼめ、i で狭め、最後にまた a へ開いて終わる。口の開きが、なだらかな谷を描いて元に戻る形です。閉鎖のない子音と合わさって、この語は発音の輪郭がやわらかく、文中に置いても角が立ちません。すべての拍が母音で終わる開音節なので、読点を打たずに前後へつなげても音が渋滞しないという利点もあります。

音色と機能の照応を考えてみたくなるのは、ここからです。選言とは「まだ決めていない」ことの表明であり、選択肢のあいだで宙吊りになる保留の身振りです。閉鎖音のないやわらかな音色は、その宙吊りによく似合う。実際この語には、文頭で「あるいは、そうかもしれない」と推量を導く副詞的な用法があり、「ひょっとすると」に近い揺れを表せます。「または、そうかもしれない」とは言えません。論理の分岐と心の揺れの両方を引き受けられたことと、音の性質とのあいだに関係を見たくなりますが、音象徴の議論は慎重を要するので、ここでは断定しないでおきます。

来歴を遡ると、この語はもともと「ある者は」「ある場合には」を意味する句だったと説明されます。ラ変動詞「あり」の連体形に「い」と係助詞「は」が付いた形で、「い」の正体には諸説あるようです。古文の「あるいは祈り、あるいは歌ひ」のように、行頭に繰り返して人々のふるまいを並べる列挙の用法が古くからあり、この反復は現代文でも生きています。同じ四拍が文頭に等間隔で戻ってくると、列挙は連祷めいた調子を帯びる。拍数が均質で音色が柔らかいからこそ、繰り返しても耳に障らないのです。選言の接続詞が存在の動詞「あり」から出発しているのも示唆的で、選択肢を並べることは、あり得る世界を並べることでもあります。

仲間たちと並べて、音の性格を整理しておきます。「ないし」は三拍の漢語系で、書類の匂いをまとう硬い音。「それとも」は同じ四拍でも疑問文が主戦場で、話し言葉の柔らかさを持つ。「もしくは」は法令の階層に組み込まれた精密機械。こうして見ると、平叙文の書き言葉で使えて、しかも柔らかい——という席に座っているのは、実質この語だけです。選言の接続詞たちは、意味の上では重なり合いながら、音と位相とで互いに棲み分けています。棲み分けているからこそ、どれを選んだかが文体の署名になるのです。

音読してみると、性格はさらにはっきりします。朗読で文の途中に現れたとき、破裂音のある接続詞は前後を切り分ける小さな段差として響きますが、この語は息を切らずに通過できる。長い一文の中で選択肢を三つ四つと連ねても、音の流れが途切れないのはそのためです。逆に、選択の重さを際立たせたい場面、たとえば決断の直前で二つの道を突きつけるような場面では、あえて段差のある語に替えるか、読点で人工の段差を作るほうが効きます。

対照的なのは公用文です。法令用語では選言の大小によって「又は」と「若しくは」を使い分ける規則が確立しています(大きな区切りに「又は」、その内側の小さな区切りに「若しくは」)。この精密な体系に、やわらかい四拍の席はありません。公用文が採らなかったぶん、この語は散文の語になった、とも言えます。話し言葉ではどうかといえば、疑問文の選言は「それとも」がほぼ独占しており、日常会話でこの語を使う人は少し書物めいて聞こえる——台詞に置けば、それだけで人物が本を読む人になる。地の文で選択肢を並べるとき、意味がほぼ等価なら、拍数と音色で接続詞を選んでよい。硬く切るなら破裂音のある語を、揺れを残すなら閉鎖のない語を選びます。耳で選ぶことも、文体の設計のうちです。

文: hakadoru.ai 編集部

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