あくる

【あくる】連体詞

使い分けの視点

あくるは古典語の動詞「明く」の連体形が、夜明けという出来事を経由したまま連体詞として生き残った語です。翌が暦の上の隣接を示すのに対し、こちらは夜を越えたという事実を含み、その夜を人物とともに過ごした語り手の気配がにじみます。日・朝・晩・年など限られた時間名詞の前にだけ立ち、昔語りや回想録の文体で深みを添えます。

同義語

同品詞の類義語

文芸的
次の
翌日の

類義句

同品詞の慣用的言い換え

明けて文芸的
夜が明けてからの文芸的
一夜明けた

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

まさに翌文芸的
明けたばかりの
一夜が明けて文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

来たるエッセイ関連

例文: 来たる冬、この橋もまた湖底に沈むだろう、と老人は誰にでもなく言った。

活用表の琥珀——「明くる日」だけが残った理由

琥珀の中には、数千万年前の虫がそのままの姿で閉じ込められていることがあります。樹脂が偶然その一匹を包み、周囲の世界がすっかり入れ替わったあとも、内側だけ時間が止まる。言語にも同じことが起こります。文法の大変動をくぐり抜けて、古い形がひとつの言い回しの中にだけ、そっくり保存されるのです。

古典語には「明く」という動詞がありました。下二段活用で、名詞に連なるときの形——連体形——は「明くる」。「夜が明く」と言い切り、「明くる朝」と名詞に続けます。ところが室町から江戸にかけて、二段活用を一段活用に揃える大規模な再編が日本語に起こりました。「受く」は「受ける」に、「起く」は「起きる」に、「捨つ」は「捨てる」に。終止形と連体形が別の形を持っていた体系から、両者が同じ形に合流した体系への移行で、係り結びの衰退により終止形と連体形の使い分けが崩れたことが背景にあるとされます。この工事は数百年がかりで進み、「明く」も「明ける」へと姿を変えました。理屈のうえでは、旧い連体形はここで消えるはずでした。

しかし「明くる日」「明くる朝」「明くる年」という結び付きだけが、再編をすり抜けて生き残りました。しかも生き残った形は、もう動詞ではありません。活用せず、述語になれず、時間を表す名詞の前にしか立てない。品詞で言えば連体詞に転じています。共起できる名詞が日・朝・晩・年などごく少数に限られるという不自由さは、この語が自由な文法の部品ではなく、決まり文句の中に封じ込められた化石であることの証拠です。

同じ成り立ちの連体詞は、探すと次々に見つかります。「いわゆる」は上代の受身の助動詞「ゆ」を含む「言はゆる」の末裔。「あらゆる」も同じ「ゆ」の系統です。「きたる」は「来たる」の連体形が固まったもの。いずれも、元の活用の体系が使われなくなったあと、連体形だけが高頻度の言い回しに乗って残存した形です。この生き残り方には一般的な力学が働いています。使用頻度の高い表現は、話者が内部を分析せずに丸ごと記憶するため、文法の規則変化が及びにくい。英語で最も頻繁に使う動詞 be や go がいつまでも不規則なままであるのと、根は同じ現象だと考えられています。

言語学は、この種の出来事を文法化と対になる語彙化の一例として整理します。文法化が、内容を持つ語から助詞や助動詞のような機能語が生まれてくる流れだとすれば、語彙化はその逆で、文法規則の産物にすぎなかった形が、分析のきかないひとかたまりの語彙として辞書に再登録される流れです。活用表の一マスにすぎなかった連体形が、独立の見出し語である連体詞に格上げされたのは、まさにこの再登録でした。規則の出力だったものが、規則が消えたあとも語彙として自活していく。

同じ種類の化石は他言語にもあります。英語の morrow は「翌朝」を意味した古い名詞で、単独ではほぼ使われなくなりましたが、on the morrow という文語的な決まり文句と、tomorrow という複合語の内部に生き延びています。高頻度の言い回しが古語の避難所になる、という力学は言語を選びません。どの言語の辞書にも、決まり文句という琥珀に包まれた化石の見出しが、いくつも眠っています。

土台の動詞そのものにも、歴史の奥行きがあります。夜が「明ける」、戸が「開く」、席が「空く」——この三つの漢字で書き分けられる動詞は同源とする説が有力です。閉じていたものがひらき、ふさがっていたものが通る。夜明けとは闇という蓋がひらくことだ、という古い身体感覚が、漢字の使い分けの下に埋まっている。化石化した連体形は、この古層の感覚ごと琥珀の中に閉じ込めています。

機能の近い漢語に「翌」があります。ただし振る舞いは対照的で、「翌」は翌日・翌週・翌年と接頭辞ふうに固く結合し、報告書や記事の文体に寄る。一方こちらは和語のまま名詞に連なり、語り物の口調に寄ります。もうひとつの違いは視点です。「翌日」が暦の上の隣接を示すだけなのに対し、こちらは夜が明けるという出来事を経由するため、その夜を人物とともに過ごした語り手の気配がにじむ。日常会話では「次の日」に押されて出番は減りましたが、そのぶん使えば文語の香りが立ち、昔語りや回想録の文体では語られる時間が一段深くなります。琥珀が装身具になるように、古い語形はその古さゆえに、現代の文章の中で意匠として働くのです。

文: hakadoru.ai 編集部

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