遅い

【おそい】形容詞

使い分けの視点

「遅い」は動作速度、応答までの所要時間、予定時刻からの遅れを一語で担います。「緩慢な」「鈍い」は速度、「遅延」は予定との差、「停滞する」は進行の停止です。「腰が重い」は着手をためらい、「じれったい」「もどかしい」は待つ側の評価を表します。何の時計や基準と比べた遅さかを示します。

同義語

同品詞の類義語

緩慢な文芸的
鈍い
のろまなcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

牛歩の文芸的
腰が重いcolloquial
足取りが重い

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

亀のようなcolloquial
泥の中を歩くような文芸的
蠢くような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

のそのそとcolloquial
徐々に
だらだらとcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

もたつくcolloquial
停滞する文芸的
ぐずつくcolloquial

体言的言い換え

用言を体言に変換

鈍足文芸的
遅延
牛歩文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

じれったいcolloquial
かったるいcolloquial
もどかしい

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

遅刻エッセイ関連

例文: 救援隊の遅刻ではなく土砂崩れによる到着遅延だと知り、村長は責める言葉を飲み込んだ。

三つの遅さが一語に同居している——応答時間・処理量・時刻

計算機の性能を測るとき、遅さは一つの数では表せません。ひとつの処理が返ってくるまでの応答時間と、単位時間あたりに捌ける処理量は、独立に動きます。一件あたり三秒かかる仕組みでも、並列に千件流せる設計なら毎秒何百件も処理できる。遅くて速い、という状態が普通に存在するわけです。逆に、一件は一瞬で返るのに全体としては詰まっている仕組みもある。この二つを混ぜて議論すると必ず話がずれるので、現場ではまず「いまどちらの話をしているか」を確認します。日本語の技術用語でも、遅延と低速はいちおう別語として立っている。ところが日常語のほうには、その区別が用意されていません。

この形容詞は、その二つに加えてもう一つを抱えています。時刻としての遅さ。「返事が遅い」という一文は、返事に時間がかかったのか、来るべき時刻を過ぎたのかを、それだけでは決められません。前者は所要時間の話で、後者は時間軸上の位置の話です。速度と位置は本来まったく別の量で、片方から他方は導けない。英語なら slow と late が分かれるところを、こちらは一語で受けている。翻訳する側から見れば取りこぼしですし、辞書を編む側から見れば厄介な多義です。しかも三つの意味は文脈で自動的に決まるわけではなく、決まらないまま流通することが多い。

では欠陥なのかと考えると、そうも言い切れません。むしろ人の会話ではこの未分化が効いている。「遅い」と言われた側は、作業の速度を責められたのか、約束を破ったと言われたのかを、その場で自分で選ばなければならない。選ばせること自体が圧力になります。分けて言えば「所要時間が長い」と「期限を過ぎている」で、後者のほうがはるかに重い。曖昧なまま投げられると、受け手はたいてい重いほうを引き当てる。責める側は最も軽い意味しか言っていないと主張でき、責められた側は最も重い意味を受け取っている。一語が分かれていないことが、そのまま対人的な機能を持ってしまっているわけです。

もうひとつ、運用の現場で広く共有されている経験則があります。仕組みの遅さの体感は平均では決まらず、最悪付近の応答時間で決まる、というものです。百回のうち九十九回が一瞬で返っても、一回だけ長く止まれば、その仕組みは遅いと記憶される。平均は改善しているのに苦情が減らない、という事態はここから起きます。ここで一度疑ってみると、記憶に残るのが最悪値なのは待たされた不快が強いからで、遅さの定義とは関係ないのではないか、とも言えます。それでも実務上は最悪値を削るほうが効くので、体感の側に合わせて指標を選び直すことになる。物語の速度感にも同じ構造があります。読者が遅いと言うとき、参照されているのは、全体の平均的な密度より、いちばん鈍かった数ページです。

書く側の対処は、たぶん二段になります。ひとつは、遅さを描く場面では読者に実際に待たせること。所要時間を数値で告げても遅さは伝わらず、待つ手続きを踏ませてはじめて伝わる。もうひとつは、意図せず鈍い箇所を作らないこと。この二つは矛盾しません。前者は設計された待機で、後者は事故です。自分の原稿を読み返すとき、全体の平均ではなく最も鈍い一箇所を探す——遅さの測り方を一つ借りてくるだけで、読み返しの手順そのものが変わります。

文: hakadoru.ai 編集部

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