映える

【はえる】動詞

使い分けの視点

色や光との対照なら「際立つ」「鮮やかに」、人物の格を上げる周辺要素には「引き立つ」が合います。清音の「映える」は文章語、濁る俗語形は会話の年代感を帯びるため、地の文と台詞で話者の位相を意識します。

同義語

同品詞の類義語

際立つ
引き立つ
映じる文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

美しく見えるcolloquial
存在感を放つ
彩りを添える文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

錦絵のような文芸的
絵画のように美しい文芸的
舞台照明を浴びたような

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

くっきりとcolloquial
鮮やかに文芸的
対比よく

体言的言い換え

用言を体言に変換

華やぎ文芸的
見栄えcolloquial
彩り文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

目を引く
景色に溶けこむ文芸的
華を添える文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

読みの断層エッセイ関連

例文: 古風な語りへ突然まじった若者語が、読みの断層を際立たせた。

はえる、ばえる——清濁が分けた二つの階層

二〇一七年の暮れ、その年の新語・流行語大賞の年間大賞に「インスタ映え」が選ばれました(「忖度」との同時受賞です)。料理が運ばれてくると、箸を付ける前にまず皿の角度を直し、窓からの光を探して写真を撮る——そんな光景が珍しくなくなった年でした。この受賞が言葉の観察者にとって面白いのは、新しい概念のために新しい語が作られたわけではない、という点にあります。古くからある動詞の読みを一つ割り出して、新しい社会階層をこしらえた。一つの見出し語の中に、二つの世代が住むことになったのです。

もとの動詞は、光を受けて照り輝く、周囲との対照で際立つ、という意味の和語です。夕日に山肌が映える。紅葉が青空に映える。夕映えという静かな複合語もあります。どちらかといえば文章語寄りの、雅な階層に住む語で、日常の話し言葉で単独に使われる機会は多くありません。一方、複合語の後ろ半分に回るときには、連濁と呼ばれる現象で頭が濁ります。見栄え、出来栄え、着映え。濁った「ばえ」は本来、複合語の内部にしか現れない音でした。連濁は和語どうしの複合を示す、いわば接着剤の痕であって、単独の語の頭に立つことはないはずだったのです。

「インスタ映え」もこの規則のとおり「ばえ」と濁って読ませます。ところが、ここから先が新しかった。複合語の後部だった「ばえ」が切り出され、「ばえる」という独立した動詞が若者の話し言葉に生まれたと見られています。この写真ばえるね。あのカフェはばえる。既存の語形から遡って新しい語形を作るこの過程は逆成と呼ばれ、語形成の解説書に載る現象ですが、清音と濁音とで語の所属階層が割れた例として、これほど鮮やかなものは多くありません。和語ではもともと語頭に濁音が立ちにくく、それだけに頭の「ば」は俗語らしさの標識として強く働きます。同じ動詞が、清く読めば文章語、濁って読めば若者語——一語の内部に、位相差の断層がくっきりと走っています。

この断層は、書き手にとっては無料の人物造形の資源です。地の文で「夕日に映える稜線」と書けば、時代を特定しない中立の文章語として働きます。会話文で「これ、ばえるね」と言わせれば、その人物のおおよその年齢層、スマートフォンとの距離、写真を撮る習慣までが一言で伝わる。逆に、年配の人物にぎこちなく「ばえる」を使わせれば、若い世代へ歩み寄ろうとする滑稽味やいじらしさを演出できます。話し方だけで人物像を伝える言葉の類型を役割語と呼びますが、その在庫に、ごく新しい一項が加わったことになります。

俗語の宿命として、濁った読みがこの先も生き残るかどうかは分かりません。流行語の多くは十年ほどで古び、使われた文章に年代の刻印を残します。ただし、それは欠点であると同時に道具でもある。二〇一〇年代後半の空気を書きたいなら、この語ほど安くて正確な小道具は多くありません。清音の読みのほうは千年単位の古株ですから、当分消える心配は不要です。どちらの読みを選ぶかは、文章の時間設定と話者の所属を一音で宣言することに等しい。辞書は二つの読みを同じ見出しに収めますが、登場人物は必ず、どちらか片方の階層に住んでいます。

文: hakadoru.ai 編集部

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