惜しい

【おしい】形容詞

使い分けの視点

届かなかった近さと、失いたくない価値を分けます。「あと一歩で手が届く」は差を可視化し、「手放しがたい」「名残」は価値への執着を示します。時間、距離、得点などを具体化すると、人物が何を惜しむかまで伝わります。

同義語

同品詞の類義語

もったいないcolloquial
心残りな
未練がましいcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

あと一歩で手が届く
指の間からこぼれ落ちる文芸的
後味を残す

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

沈みゆく夕日のような文芸的
最後の一粒を眺めるような文芸的
閉まりかけの扉のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

未練たらしくcolloquial
名残おしげに文芸的
心残りに

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

取り逃がす
悔やむ
手放しがたい文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

悔い
名残文芸的
心残り

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

何度も振り返る
拳を握って天を仰ぐ文芸的
指先がグラスを離れない文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

一問差で届かなかったエッセイ関連

例文: 奨学生の名簿まで一問差で届かなかった少年は、答案を畳んで来年の席を申し込んだ。

差だけを告げる評語——余白に書かれると困る一語

原稿の余白に書き込まれる短評のうち、いちばん扱いに困るのがこれです。褒めているようで褒めていない。直せと言われているのは伝わるけれど、どこをどう直せば届くのかは書かれていない。この座りの悪さが生じるのは、この語が対象の性質ではなく、対象と何かとの差について述べているからでしょう。差があることだけを告げて、差の中身を言わない。評語としては、ほとんど手渡しに失敗している。

意味の枝は二つに分かれます。手放したくないという側——命が惜しい、名を惜しむ、出し惜しみ、骨惜しみ。そして、あと少しで届かなかったという側——惜しい試合、惜しくも二位。どちらも価値あるものの喪失についての語で、前者は失う前、後者は失った後に立っています。時制が違うだけで、見ているものは同じだ。この二つが一語に同居していることが、余白の書き込みの曖昧さの出どころでもあります。この原稿を捨てたくないという意味なのか、あと一歩だという意味なのかで、受け取り方はまるで変わってくる。

実作で扱うときの第一の注意は、近さを読者が計算できなければ何も起きない、という点にあります。あと少しだった、と地の文で言われても、その少しがどれくらいなのか分からなければ、読者の中で何も動かない。一問差、半歩、三秒、指先の幅。差を数えられる形で先に出しておけば、評語のほうは要らなくなることさえあります。順位や記録のように尺度が最初から共有されている領域でこの語がよく働くのは、読者に計算の手間がかからないからです。逆に言えば、尺度を作らずにこの語だけを置くのは、答えのない引き算を読者に押しつけていることになる。近い意味に見える「もったいない」と比べると、この条件の厳しさがはっきりします。もったいないのほうは、対象そのものに価値が余っていれば成立し、誰かの挑戦を前提にしません。まだ使える物を捨てるとき、そこに挑戦者はいない。それに対してこちらの語は、何かに近づいた者がいたことを暗黙の条件にしている。試みが描かれていない場面に置けば、前提だけが宙に浮いてしまう。

ただ、地の文から追い出せばいいという話でもありません。誰が何を惜しいと感じるかは、その人物が何を価値だと見なしているかの露出だからです。強敵に敗れた者が、自分の負けを惜しむのか、相手の消耗を惜しむのか、費やした年月を惜しむのかで、人物の輪郭はまるで変わる。語り手が使えば読者の判断を先取りしてしまう評語が、人物が使えば人物の内側を見せる証拠になる。同じ一語が、置く位置によって説明にも描写にも転ぶわけです。

活用の端のほうには、まだ手垢のついていない形も残っています。惜しむらくは、という言い回しは現代語の活用から外れた化石で、使えば文語の格が一文だけ入り込み、語り手が半歩高い位置に立つ。惜しみない、という否定形になると評価が反転して、出し渋らないという肯定になる。価値を認めているのに手放す、という二重の動きが折り畳まれた形です。同じ語幹から、差を告げる語と、差を無視する語の両方が出ている。使い古された評語に見えて、まだ触られていない面がいくつか残っている。

文: hakadoru.ai 編集部

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