少ない

【すくない】形容詞

使い分けの視点

「少ない」は比較の基準を言わずに済む反面、読者ごとに量の像がずれます。「乏しい」は必要量に届かない評価、「まばらな」は分布、「数えるほどの」は具体的な少数を示します。重要な場面では比較対象や実数を置くか、一度しか起きなかった出来事を挙げ、抽象的な不足を情報量のある像へ変えます。

同義語

同品詞の類義語

僅かな文芸的
乏しい文芸的
まばらな

類義句

同品詞の慣用的言い換え

数えるほどの
片手で足りるcolloquial
雀の涙ほどのcolloquial

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

砂漠に水のような文芸的
焼け石に水のようなcolloquial
木枯らしに落ち葉のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ちらほらとcolloquial
細々と文芸的
辛うじて文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

欠く文芸的
減る
底を突くcolloquial

体言的言い換え

用言を体言に変換

僅か文芸的
不足
微量文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

ごくわずかな
微々たる文芸的
絶望的に足りない

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

三日で二人エッセイ関連

例文: 客が少ない、ではなく三日で二人と書くと、基準を問わず寂れた店の現実が届いた。

頻度表の裾を見ていて気づくこと

大きなテキストの集まりを用意して、現れた語を頻度順に並べる。すると、上位のごく少数の語が全体の大半を占め、下へ行くほど長い裾が伸びていきます。順位を r、頻度を f としたとき、f がおよそ 1/r に比例する——ジップの法則と呼ばれる経験則で、日本語に限らず多くの言語で近い形が観察されています。この図を最初に見たときに目を引かれるのは、しかし上位ではありませんでした。裾のほうです。上位百語は数えれば終わる。裾は、どこまで行っても終わらない。

裾の端には、そのテキスト全体でただ一度しか現れなかった語が並びます。ハパックス・レゴメノンと呼ばれるもので、異なり語数のうちかなりの割合をこれが占めるという事実は、計量言語学ではよく知られています。厄介なのは、集めるテキストを増やしても、この割合が期待するほど下がらないことです。総語数を増やせば異なり語数も増え続ける——ヒープスの法則と呼ばれる関係で、その増え方はべき乗に近い。新しく足した文章が、また新しい一度きりの語を連れてくる。語彙は、汲んでも底に届かない井戸のような振る舞いをします。

ここで引っかかったのは、稀少さを記述するための語そのものは、まったく稀少ではないという点でした。この形容詞は日常の書き言葉に高い頻度で現れます。裾を語る語が、上位側に居座っている。当たり前のようでいて、考えると当たり前ではありません。世界の中で稀なものは無数にあり、それを一語で片づけられるということは、量の判断が対象の中身から独立していることを意味します。何が少ないのかを問わずに、少なさだけを取り出して言える。抽象度が高い語ほど頻度が高いという一般的な傾向の、ひとつの現れなのでしょう。

ただ、頻度の高さは、その語が正確に使われていることを意味しません。むしろ逆で、高頻度語は意味の輪郭がぼやけやすい。共起の側から見ると、この語には目立つ性質があります。比較の相手を言わずに使われることが非常に多い。「客が少ない」と書いたとき、去年と比べてなのか、他店と比べてなのか、期待と比べてなのかは、文の中に書かれていません。基準は文の外に置かれ、読者が勝手に補う。補い方は読者ごとに違うので、書き手の意図した量と読者の受け取る量はずれます。しかも、ずれたことは誰にも検出されない。

原稿の中でこの語が繰り返されると、読者は毎回その補完作業をやらされることになります。作業自体は一瞬ですが、積み重なると像が薄くなる。対処はいくつかあります。基準を書く。数に置き換える。あるいは、頻度表の裾のほうを真似る——一度しか起きなかったことを一つだけ具体的に挙げる。三日で二人しか来なかった、と書けば、少なさは量としてではなく出来事として届きます。分布の図が教えるのは、上位語の便利さではなく、裾に落ちている個別の一語が持つ情報量のほうです。稀にしか現れないものほど、現れたときに多くを語る。

文: hakadoru.ai 編集部

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