乏しい

【とぼしい】形容詞

使い分けの視点

「乏しい」は単に量が少ないのではなく、必要な基準へ届いていないと評価する語です。説得力、資金、表情など、何がどれだけ要る場面かを前後に置きます。意図的な省略や余白まで不足と断じないよう、選択の有無も見極めます。

同義語

同品詞の類義語

少ない
僅かな文芸的
不十分な

類義句

同品詞の慣用的言い換え

事欠く文芸的
底をつく
手が回らないcolloquial

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

痩せた畑のような文芸的
底の見える壺のような文芸的
枯渇寸前の泉のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ほんの僅か
かろうじて文芸的
雀の涙ほどcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

欠乏する文芸的
枯渇する文芸的
払底する文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

欠乏文芸的
不足
枯渇文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

心許ない文芸的
手薄な
やりくりに苦しむcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

基準に届かないエッセイ関連

例文: 補給量は、冬を越す基準に届かない。

目盛りの位置と、足りていないという判断

在庫が少ない、と書くのと、在庫が乏しい、と書くのは、同じことを述べているのでしょうか。数量としては同じ状態を指しているはずなのに、後者だけが何かを言い足している気がする。その言い足しの正体がすぐには掴めなくて、しばらく両方を並べて眺めていました。言い換えの候補として並ぶ語には、僅かだ、不十分だ、事欠く、底をつく、といった幅があり、それぞれ違う場所を触っているらしいことは分かる。ただ、どこが違うのかを言葉にしようとすると滑る。

たどり着いたのは、基準点の有無です。数の少なさを述べる語は、目盛りのどのあたりにいるかを言うだけで、そこが困る位置かどうかには触れません。もう一方は、必要とされている量が別にあって、そこへ届いていないと述べている。つまり評価の述語であり、必要量の存在を前提として引き連れている。前提であることは否定でも消えないという性質で確かめられます。足りていないことを打ち消しても、必要量が想定されていること自体は残る。含意と前提の違いは教科書的な区別に見えますが、こうして具体的な二語を並べたときに、はじめて手応えのある道具になる。

統語のふるまいも、この読みを裏づけます。この語は「説得力に乏しい」「表情に乏しい」のように、助詞のニに不足の中身を取る形を持つ。数の少なさを述べる語のほうは、この形をきれいに取れません。ニ格が指しているのは、器としての主語に入っているべき中身です。主語が容器で、内容物が規定量に達していない——構文がそのまま意味の骨格を写している。文法的なふるまいが意味論の仮説を検証する材料になる例として、これは分かりやすい部類だと思います。逆に言えば、語感だけで意味を語ると、こうした構文の証拠を見落とす。

プロトタイプの話に移ると、少し揺れます。中心的な用法は物資の不足、たとえば食糧や資源だろうと最初は考えました。抽象的な用法はそこからの拡張だ、と。ところが自分で例を集めてみると、現代の文章で目にするのは想像力や説得力や表情の側ばかりで、物資のほうが周辺に見えてくる。ここで観察を修正する必要が出てきます。プロトタイプは歴史的な中心と現在の使用の中心がずれることがあり、直観で語ると、たいてい前者を語ってしまう。語感の説明が当てにならない理由の一つがここにある。上位の概念としては不足や欠如に括られるはずですが、括ったとたんに、この語だけが持っていた「基準を呼び出す力」が抜け落ちてしまうのも厄介なところです。

書き手の実務に引き寄せると、注意すべき点は一つに絞れます。この語を置いた瞬間、読者は「何が必要とされているのか」を探し始める。基準が用意されていなければ、読者はそれを自分で補い、書き手の意図しない基準が入り込む。表情が足りていないと書くとき、比較の相手は誰なのか。資金が足りていないと書くとき、何をするための額なのか。基準を一行前か一行後に置くだけで、同じ語の解像度が変わります。足りないと述べる文は、足りるとは何かを述べる文と対にして初めて仕事をする。

文: hakadoru.ai 編集部

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