それゆえ

【それゆえ】接続詞

使い分けの視点

口に出して比べると、この語には破裂音が一つもありません。舌はどこも打たず、四拍のあいだ気流が流れ続けます。「だから」がスタッカートで入るのに対し、こちらはレガートで、文の立ち上がりが遅い。意味では同じ順接の因果でも、音の設計がまるで違います。斬り合いの最中の即断や口喧嘩の応酬には向かず、裁定、述懐、遺言、神託のように、時間の流れが緩んで一語一語が重く落ちる場面でこそ本領を発揮します。接続詞を音で選ぶ余地です。

同義語

同品詞の類義語

ゆえに文芸的
よって文芸的
したがって文芸的
だからcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

そのため
その結果
結果として

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

かるがゆえに文芸的
もって文芸的
なれば文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

遺言エッセイ関連

例文: 老人の遺言は、それゆえ、で始まった。四拍が、書状の中でいちばんゆっくりした呼吸を運んでいる。

レガートエッセイ関連

例文: だから、がスタッカートなら、この語はレガートで入る。同じ因果でも、始まり方の速度がまるで違う。

破裂音を持たない接続詞——四拍が運ぶ荘重

口に出して比べてみると、すぐに気づくことがあります。だから、と言うとき、舌は口の中を二度、強く打ちます。ダ行とカ行はどちらも破裂音——いったん閉じた気流を一気に解放する子音です。ところが、それゆえ、と言うと、舌はどこも打ちません。サ行の摩擦、ラ行の弾き、ヤ行の渡り。気流は一度も堰き止められることなく、四拍のあいだ流れ続けます。論理としては同じ順接の因果を示す接続詞なのに、口の中で起きている出来事がまるで違うのです。

清濁と母音の分布にも差があります。だから は濁音で始まる語です。日本語の音象徴の研究では、濁音が大きさや重さ、粗さの印象と結びつきやすいことが繰り返し確かめられています。ころころ と ごろごろ で、転がっている物の大きさが変わって聞こえる、あの現象です。一方の それゆえ には濁点が一つもなく、摩擦音と弾き音と渡り音だけで組み立てられている。母音を並べれば、だから は口を最も大きく開ける a の三連続、それゆえ は o-e-u-e という開口度の小さい母音だけの列で、a を一度も含みません。開いた母音の連続は声量が出やすく、率直で押しの強い調子に向く。狭い母音の連なりは、抑えた内向きの響きになる。同じ因果でも、一方は宣言に、一方は沈思に向いた音の設計になっているわけです。

拍数の問題もあります。文頭に置かれる接続詞の拍数は、文の立ち上がりの速度を決めます。三拍のうち中央の一拍を促音の詰まりに充てる よって は、裁決を言い渡すように文を断ち切って始める。同じ三拍でも詰まりを持たない だから は、日常の歩幅で踏み出す。四拍を使い切ってから主節に入る文は、それだけで歩幅が広く、開始が遅い。文語の かるがゆえに まで伸ばせば六拍、ほとんど儀式の足取りです。したがって は五拍に促音の溜めを一つ持ち、事務文書の律儀な歩調になる。ゆえに も三拍ながら破裂音を持たず、それゆえ の静けさをちょうど一拍だけ切り詰めた形です。順接の接続詞群は意味ではほとんど区別がつかないぶん、実際には拍数と子音の質で使い分けられていると見るほうが実態に近いと考えられます。ピアノの打鍵に喩えるなら、だから はスタッカートで、それゆえ はレガートで入る。

末尾の音も効いています。この語は母音単独の拍 え で終わる。子音の支えなしに開いたまま減衰する音は、余韻を引きます。翻訳調の論説や、古典の香りを残したい台詞でこの語が好まれてきたのは、意味の硬さだけでなく、この減衰の仕方が場の速度と合っているから——少なくとも音の側からはそう説明がつきます。だとすれば、小説での使いどころも音から導けます。斬り合いの最中の即断や、口喧嘩の応酬には向きません。裁定、述懐、遺言、神託。時間の流れが緩み、一語一語が重く落ちる場面でこそ、破裂音を持たない四拍は本領を発揮します。接続詞を意味で選ぶことは誰もがしている。音で選ぶ余地はまだ広く残っていて、文体はそのぶんだけ彫り込めるということです。

文: hakadoru.ai 編集部

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