および

【および】接続詞

使い分けの視点

およびは、書類の世界に生きる語です。法令では「及び」の漢字が小さなまとまりを束ねる演算子として働きますが、小説の地の文に置けば官報の匂いが立ち、多くの書き手は「と」や「も」で並列を済ませます。逆手に取る道もあり、掲示や契約書のなかにわざと置けば、その紙の背後にある制度や権力までが一語でついてきます。この文がどの文書に属するのかを先に決めてから、採否を選ぶとよい語です。

同義語

同品詞の類義語

ならびに文芸的
また
かつ文芸的
それからcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

あわせて
そのほかに

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

加えて
並びに文芸的
なおかつ文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

及びエッセイ関連

例文: 「職員及び許可を受けた者以外の立入りを禁ず」——錆びた札が、閉じた倉庫の管理者を代弁していた。

エッセイ関連

例文: 職人と弟子と、二つの影が坂を下った。

条文だけが漢字で書く——「及び」の線引きと入れ子構造

役所の文書には、表記の内規があります。現在の公用文の指針では、接続詞は原則としてひらがなで表記されます——「したがって」「ただし」がその例です。ところが例外として漢字書きを保つ語があり、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の四語がその代表です。この線引きは昭和二十七年の「公用文作成の要領」の系譜にあり、令和四年に文化審議会が建議した「公用文作成の考え方」でも踏襲されました。新聞や教科書の表記がこれに準じる場面も多く、内規は役所の外にも長い影を落としています。なぜこの四語だけが特別扱いなのか。これらが単なる接続詞ではなく、法令文の演算子だからです。

法令の世界では、「及び」と「並びに」は階層を分担しています。小さいまとまりを「及び」で結び、まとまりどうしを「並びに」で結びます。「A及びB並びにC」と書かれていれば、AとBがまず束ねられ、その束とCが並ぶ入れ子です。条文は括弧や図を自由に使えないため、語そのものに結合の優先順位を持たせました。選択の側も同じ発想で、大きい選択を「又は」、その内側の選択を「若しくは」が受け持ちます。数式が結合の強さを演算子に割り当てるのと同じ設計が、漢字一字と送り仮名でできた接続詞に実装されているわけです。表記を漢字に固定しているのは、これらが日常語ではなく記号であることの宣言だと解せます。記号の綴りが揺れては、構造の解析に差し支えるからです。

一般の文章に降りてくると、この語は途端に居心地が悪くなります。小説の地の文に「及び」と漢字で書けば官報の匂いが立ち、「および」とひらがなに開いても、まだ事務の気配が抜けません。多くの書き手は地の文でこの語自体を避け、「と」や「も」や読点で並列を処理します。表記の選択どころか、語の採否そのものが文体の選択になっている稀な例です。一方、理工系の文書や取扱説明書では、ひらがな書きが並列の標準装備として定着している印象があります。同じ語が、法令では漢字の演算子、技術文書ではひらがなの部品、小説では出入り禁止——所属する文書の種類ごとに、表記と待遇が変わるのです。

逆手に取る道もあります。作中に契約書、校則、辞令、約款を登場させるとき、「及び」の一語は最短の小道具です。漢字一文字と送り仮名一文字が、その紙の背後にある制度と権力をまるごと連れてきます。「関係者及び来訪者以外の立入りを禁ず」という掲示を一枚立てるだけで、その場所に管理者の顔が見えてきます。人物の台詞に混ざれば、役所言葉の抜けない人物の輪郭になります。

送り仮名の「び」にも履歴が刻まれています。この語は動詞「及ぶ」の連用形が接続詞に転じたもので、品詞が変わった後も、動詞だった時代の送り仮名を保存しています。「並びに」の「び」も同様です。表記は発音の写しであるだけでなく、語がどこから来たかを記した履歴書でもある。ひらがなに開けば履歴は見えなくなり、漢字で書けば由来と制度性が表に出ます。一語の表記を決めることは、その語の過去をどこまで読者に見せるかを決めることでもあるのです。

文: hakadoru.ai 編集部

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