騙す

【だます】動詞

使い分けの視点

「騙す」は、相手に誤った認識を持たせる広い日常語です。たぶらかすは誘惑を、罠にはめるは仕組まれた害を、ペテンは胡散臭さを強めます。能動側の手口だけでなく、被害を受けた側が何を信じたかを描くと、欺きの重さが具体になります。

同義語

同品詞の類義語

欺瞞する文芸的
たぶらかすcolloquial
誑かす文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

一杯食わせるcolloquial
罠にはめる
鼻面を引き回す文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

蜘蛛の巣を張るような文芸的
蜃気楼のような文芸的
砂糖をまぶしたような

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

まんまとcolloquial
巧妙に
うまうまと文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

詐欺
ペテンcolloquial
欺瞞文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

いっぱい食わすcolloquial
引っ掛ける
鼻毛を読む文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

騙されたふりの共犯エッセイ関連

例文: 騙されたふりの共犯となった侍女は、王妃の逃走に驚いてみせた。

受け身のほうで目にする動詞——分布から輪郭を測る

騙し絵の前に立つ人は、誰にも欺かれていません。錯覚が起きると承知のうえで、起きるところをわざわざ見にいっている。同じ動詞を含んでいても、騙し討ちは戦術の話であり、騙されたふりは共犯の話です。複合になった途端、意味の座標がずれる。単語の意味を積み上げても複合語の意味には届かないという、ありふれた事実の一例ですが、この語の場合はずれの幅が大きい。連続する語の並びを塊として数える方法が言語処理で有効なのは、こうした塊が語彙の一員として独立してしまうからでしょう。

数える前に、表記を揃える手間もあります。この字は常用漢字表に入っていないため、新聞や教科書では仮名に開かれ、小説では漢字のまま置かれる。同じ語が資料によって二通りの姿で現れるので、機械的に集計するなら、まず両方を一つの見出しに束ねなければなりません。しかも同じ字は「騙る」という別語も担っていて、字で検索すれば身分を偽るほうの語まで一緒に釣れてくる。表記は、語を数える作業のいちばん手前で足を取るところにあります。

態の偏りは、もっと目につきます。厳密な数字を出せる立場にはないので印象の域を出ませんが、この動詞は能動形より受動形で目にすることが多い。騙された、騙されている、騙されやすい。加害の側からではなく、被害の側から語られる。共起する語を思い浮かべても、能動なら「まんまと」、受動なら「まんまと」も「すっかり」も付く。悪事を語る動詞でありながら、実際の分布は被害の記述に寄っているとすれば、それは語彙の問題ではなく、何が語られやすいかという問題です。

類義語のあいだの分業も、同じ視点から見えます。同じ事柄を指す語が十個あるとして、それらは対等ではない。日常的に使われる一語が意味の幅をほとんど引き受け、残りは狭い文脈に閉じている。この語は前者で、たぶらかす、誑かす、といった語は後者です。よく使われる語ほど意味が広いという関係は、経済的な圧力として説明されることがあります。頻繁に使う道具ほど汎用になる、というのは道理には合う。ただ、これを法則として断定するのは避けたほうがよさそうです。

ここで、自分の整理に疑いをかけておきます。使用が稀な語が必ず狭いわけではありません。見かける機会は少なくても意味の広い語はあり、逆に頻繁に使われるのに用途の狭い語もある。分布と意味幅の対応は傾向であって、個々の語を予測する規則ではない。それでも一つ残ります。書き手が見慣れない側から語を選ぶとき、選ばれているのはその語の正確な意味ではなく、しばしば「めったに見ない語である」という属性そのものです。誑かす、と書いた書き手が伝えたいのは、欺きの種類よりも、文体の温度であることが多いものです。

だとすれば、類義語を選ぶ作業は、意味の微差を見比べる作業とは少し違うものになります。辞書の語釈を並べて悩むより、その語が読者の目にどれくらいの頻度で触れているかを見積もるほうが早い。日常語を選べば文は透明になり、見慣れない語を選べばそこで読者の速度が落ちる。落としたい場所かどうかを決めるのは、意味論ではなく設計の判断です。

文: hakadoru.ai 編集部

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