臭い

【くさい】形容詞

使い分けの視点

「臭い」は匂いの記述と同時に、視点人物の嫌悪や疑いを露出させます。「悪臭」「腐臭」は発生源を客観寄りに示し、「鼻をつく」「胸がむかつく」は知覚する身体へ寄せます。中立な情景なら成分を具体化し、判定を人物造形に使う場面と分けます。

同義語

同品詞の類義語

悪臭を放つ
饐えた文芸的
くさみのあるcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

鼻をつく
鼻が曲がるcolloquial
異臭を放つ

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

腐ったような
下水のようなcolloquial
獣のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

むっとcolloquial
つんとcolloquial
ぷんとcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

鼻を覆う
息を止める
眉根を寄せる文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

悪臭
異臭
腐臭文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

鼻が捩じ切れそうなcolloquial
耐え難いほどの
胸がむかつくほどのcolloquial

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

判定を含む臭いエッセイ関連

例文: 語り手の判定を含む臭いが、客室へ入った瞬間から犯人への嫌悪を示した。

官能評価の部屋には持ち込めない語

食品や香料の官能評価をおこなう現場では、この語はほとんど使われないと言われます。評価票に並ぶのは「異臭」「オフフレーバー」「もどり香」といった、判定を含まない術語です。理由は明快で、評価者どうしが同じ対象を指すために、価値判断を語彙から切り離しておく必要があるから。ある試料について「くさい」と誰かが口にした瞬間、その場の評価は共有可能な記述ではなくなります。専門語というのは、しばしばこうやって日常語の中に含まれる判定を外科的に抜き取ったものです。

日常語に戻ると、事情はきれいに反転します。この語は記述ではなく、ほとんど判定そのものです。しかも一方通行で、自分について申告する語としては働きにくい。他人の体臭を指してこの語を使うことはできますが、自分について同じ語を使うと、それはもう自嘲か告白になります。専門語と日常語の断層は、意味の範囲の広い狭いではなく、こういう非対称のかたちで現れる。ここで少し立ち止まりたいのは、この非対称が嗅覚だけのものなのかという点です。視覚の語には、これに正確に対応するものが見当たりません。

もう一つの層が、接尾辞としての用法です。面倒くさい、うさんくさい、年寄りくさい、素人くさい、インテリくさい。ここでの「くさい」は鼻から離れ、「その気配が濃すぎる」ことを指す否定の標識になっています。ただし完全に離れたとも言えません。抹香くさい、汗くさい、焦げくさいでは、嗅覚がまだ生きている。中間には、乳くさい、青くさいのように、実際の匂いの記憶と抽象的な評価が半分ずつ混ざった語がある。抽象化は一気に起きるのではなく、語ごとに違う地点で止まっている——だから接尾辞と呼ぶか複合の後部要素と呼ぶかで、扱いが揺れます。

さらに別の位相があります。推理小説や刑事ドラマの台詞に出てくる「臭うな」「あいつが臭い」。誰も実際には嗅いでいません。英語にも smell fishy のような言い方があるので、嗅覚が疑いに転用されること自体は珍しくないのでしょう。日本語で目を引くのは、この用法が特定の話者像と結びついていることです。捜査に慣れた人物、勘で動く人物。同じ語が、官能評価の部屋では追放され、取調室の比喩としては歓迎される。語の位相は、意味よりも、それを口にできる人間の輪郭に宿っています。

書く側に返すと、扱いはかなり技術的な問題になります。地の文にこの語を置いた瞬間、そこには判定が入り、視点人物が誰であるかが確定します。中立に情景だけを提示したいなら「におい」で止めるか、匂いの成分を具体で書く。逆に、視点人物の育ちや潔癖さを一語で示したいときには、これほど効率のよい語もない。台詞の中でこの語を選ばせた人物と、選ばずに黙って一歩下がった人物とでは、読者が受け取る階層の情報が違います。判定語を排除した専門語彙が存在するという事実は、裏返せば、日常語の側にどれだけ判定が沈んでいるかの目盛りになります。

文: hakadoru.ai 編集部

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