復讐

【ふくしゅう】名詞

使い分けの視点

「復讐」は達成の瞬間より、果たせない時間を長く支える語です。「報復」は直近の応酬、「仇討ち」は役目や旧い制度、「因果応報」は人の手を離れた帰結へ寄ります。標的へ届かない理由と、待つ間に生まれた暮らしを示すと、怒りだけでなく物語の長さが見えてきます。

同義語

同品詞の類義語

報復
仇討ち文芸的
意趣返し文芸的
報い文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

血の清算文芸的
目には目を文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

火をつけるような
毒を返すような文芸的
暗闇を裂くような文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

仇を討つ文芸的
報いを返す文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

遺恨の果て文芸的
借りの返済colloquial
因果応報文芸的

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語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

果たせない今日エッセイ関連

例文: 刺客は果たせない今日を積み重ねるうち、標的の町に守りたい店を持った。

制度が消えた日から物語が始まる

江戸時代の日本では、親や主君を殺された者が加害者を討つ行為に、一定の手続きが用意されていました。届け出があり、許可があり、遂行後の報告があった。私的な暴力ではなく、社会が枠を与えた行為だったわけです。この枠は明治六年の布告によって公式に廃されます。制度が消えたことで、この主題は現実の作法から切り離され、もっぱら舞台と紙の上で扱われるものになりました。文学史の側から見れば、禁止は終わりではなく、素材としての自由が始まった地点にあたります。手続きを書く必要がなくなった代わりに、討つ理由を作品ごとに一から作らなければならなくなった、とも言えます。

もっとも、制度が生きていた時代にすでに、芝居はこの主題を大量に消費していました。十八世紀半ばに初演された仮名手本忠臣蔵は、実際の事件を『太平記』の世界へ移して上演され、以後くり返し改作されていきます。ここで目を引くのは、討ち入りそのものより、そこへ至るまでの離散と潜伏に上演時間の大半が費やされている点です。目的の達成は最後の短い場面にすぎない。すでにこの段階で、主題の重心は行為ではなく待機のほうに置かれていました。舞台が長く見せられるのは、耐える時間であって、斬る時間ではなかったのです。

明治以降、翻訳と翻案がこの型に外来の血を入れます。デュマの長編を黒岩涙香が翻案した巌窟王は、その代表的な例として知られています。無実の投獄、脱獄、資産の獲得、身分を変えての帰還という筋立ては、日本の仇討物語が持っていなかった要素をまとめて持ち込みました。とりわけ、加害者を一人ずつ社会的に破滅させていく段階的な手順は、一度の襲撃で完結する討ち入りとは時間の設計が根本から違います。復讐が長い散文を支えられる主題になったのは、この分割払いの発明が大きかったと考えられます。標的が複数いれば、章の数だけ山場が用意できる。

同じ構造は西洋の古典の側にも見つかります。ハムレットは、父の死の真相を早い段階で知りながら、最後まで行動を先送りし続ける。批評の歴史はこの遅延の理由を何百年も論じてきましたが、作劇上の効果ははっきりしています。復讐が即座に果たされれば、幕はそこで下りる——遅延こそが、この主題の駆動装置なのです。復讐譚という呼び名は行為を指しているように見えて、実際に紙面を占めているのは、行為ができない状態の持続のほうだ。

だから実作でこの主題を扱うとき、最初に設計すべきは動機ではありません——動機は一行で足りる。設計が要るのは、なぜ今日はまだ果たせないのか、という理由の在庫のほうです。力量の差、居場所の不明、法や共同体の壁、標的の側の変質、そして討つ側が途中で生活を持ってしまうこと。在庫が尽きた時点で物語は終わりますから、その数と配置が作品の長さをそのまま決めます。江戸の芝居が潜伏に時間を割いたのも、翻案が段階的な破滅を選んだのも、同じ問題への別々の解答でした。この主題が古びていると言われがちなのは、動機の側ばかりが繰り返し語られてきたからかもしれません。

文: hakadoru.ai 編集部

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