むしろ
【むしろ】接続詞使い分けの視点
「かえって」「逆に」は予想や既出の評価を反転し、「それどころか」は前項を越える強い展開です。「なまじ」は不十分に備わる性質が悪い結果を招く含みを持ちます。「いっそ」「いっそのこと」は迷いを断って極端な案を選びます。「どちらかといえば」「あえて言うなら」は比較判断を弱めます。
同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
「かえって」「逆に」は予想や既出の評価を反転し、「それどころか」は前項を越える強い展開です。「なまじ」は不十分に備わる性質が悪い結果を招く含みを持ちます。「いっそ」「いっそのこと」は迷いを断って極端な案を選びます。「どちらかといえば」「あえて言うなら」は比較判断を弱めます。
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。
例文: 語り手は旅が苦しかったことを消さず、先の評価を残して上書きするように、得た喜びのほうを大きく語った。
順序という考え方には、二つの段階があります。任意の二つを必ず比べられる並び方と、比べられない対が残る並び方。数学では前者を全順序、後者を半順序と呼び、たとえば集合の包含関係は後者にあたります。互いに相手を含まない二つの集合は、大小のどちらとも言えない。この区別を手に持ったまま日本語の副詞を見ると、思いのほか働く場面があります。
この接続的な副詞は、二つのものの並びを反転させる位置に立ちます。AよりB、と言うだけなら順序の宣言で済みますが、この語が入ると、宣言の前に何かが前提されていることが分かる。聞き手はすでにAのほうを上に置いている、という前提です。前提された並びを、話し手がその場で書き換える。だから、まだ何の並びも置かれていない話題の冒頭では使えません。使うためには、先に順序が存在していなければならない。反転の演算子は、反転させる対象がなければ定義されない、という当たり前の事情が、そのまま語の使用条件になっています。
引っかかるのは、比較できないはずの対に使える場合です。悲しいというよりこちらだ、と怒りを持ち出すとき、悲しさと怒りは同じ尺度の上に並んでいません。半順序の中の、比較不能な二点です。それでも文は自然に通る。ということは、この語は既存の順序を反転させているだけでなく、その場で新しい尺度を持ち込んでもいる。いま自分の状態を説明するのにどちらが適合するか、という一回限りの物差しが、発話の瞬間に立ち上がっている。
ただ、尺度を持ち込むだけなら「より」で足りるはずです。この語が余分に担っているものを探すと、時間性に行き当たります。ここでの反転は、前の言明の撤回ではなく上書きです。撤回なら、先の発言は消える。上書きなら、下の層は残ったまま新しい層が重なる。悲しくないとは言っていない、という含みが消えないのは、そのためでしょう。順序の書き換えの記録が、文の中に残っている。
書き換えが局所的だという点も見落とせません。順序関係が順序として成り立つためには推移性が要ります。AよりBが上で、BよりCが上なら、AよりCが上でなければならない。ところがこの副詞による反転は、そのつど目の前の二つにだけ働きます。ある場面でAよりBを上に置き、別の場面でBよりCを上に置いた話し手が、AとCを比べるとまた元に戻る、ということが平気で起こる。局所的な反転を重ねても、全体としてひとつの順序にはならない。数学なら矛盾ですが、人の判断ではごく普通の光景です。
そう考えると、この語が続けて使われる会話の落ち着かなさにも説明がつきます。一度反転させ、その反転をもう一度反転させると、外から見れば出発点に戻っているのに、話し手には前進した感覚が残る。局所的な操作だけを見ているからです。議論の記録を後から読み返して筋が通らないと感じるとき、原因は結論ではなく、この種の反転を何回踏んだかにあることが多い。
もう一点、数学の言葉を借りるなら、この語は中間を取りません。二つの選択肢の重み付き平均、つまり凸結合のような位置には落ちない。端点への移動です。折衷や妥協を述べたい場面には向かず、そこは「どちらかといえば」の受け持ちで、あちらは重心をわずかにずらすだけの操作をします。両者を取り違えると、断固としているつもりの文が煮え切らなくなる。
議論する人物にこの語を持たせると、思考の速さが出ます。相手の置いた順序を一度そのまま受け取り、受け取ったうえで裏返す。反射的な否定では、この二段構えは作れません。聞いていた証拠が語形に残るという点で、対話の場面では相手への敬意を示す装置にもなりえます。
文: hakadoru.ai 編集部
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