たとえ
【たとえ】接続詞使い分けの視点
「たとえ」は最も不利な条件を置き、それでも帰結が変わらないと示す譲歩です。単なる場合分けのもし、議論上の仮置きである仮に、低確率を示す万が一とは役割が違います。後件の極性を必ず確かめ、楽な条件を置いて大げさにしないでください。誓いに使えば、物語は後からその全称性を試せます。
同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
「たとえ」は最も不利な条件を置き、それでも帰結が変わらないと示す譲歩です。単なる場合分けのもし、議論上の仮置きである仮に、低確率を示す万が一とは役割が違います。後件の極性を必ず確かめ、楽な条件を置いて大げさにしないでください。誓いに使えば、物語は後からその全称性を試せます。
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。
例文: 最悪の場合を一つ置く。橋が落ちても届ける、と伝令は地図から橋の線を消した。
例文: 誓いを壊す反例は、敵でも嵐でもなかった。守ると決めた本人からの拒絶だった。
橋を設計する技術者は、平均的な風速では計算しません。想定しうる最大の突風、稀にしか来ない規模の地震——構造物の強度は、最も不利な条件に対して検証されます。工学で最悪ケースの検討と呼ばれる発想です。日本語の条件表現の中に、これとちょうど同じ構えで働く形が一つあります。「たとえ〜ても」の構文です。
「もし」と並べると、構えの違いがよく見えます。「もし雨が降ったら、順延する」という文は、雨という一つの場合を取り出して、その場合に何が起きるかを述べる。条件が変われば帰結も変わる、という連動が前提にあります。「たとえ雨が降っても、決行する」は逆で、条件をどう振っても帰結が動かないことを主張します。論理の言葉に置き換えるなら、前者は特定の場合についての条件文、後者は「すべての場合において結論が成り立つ」という全称の主張に近い。冒頭の一語が変わるだけで、文の量化の構造が変わるのです。
この副詞は、単独では立ちません。文中に置けば、後ろのどこかに「ても」か「とも」が必ず現れる。呼応の副詞と呼ばれる一群のふるまいで、「決して」が否定を、「まるで」が比況を要求するのと同じ性質です。記法に引き寄せて言えば、量化子が束縛する変数を持たなければ式にならないのと似ています。すべての、と書いただけでは何も主張したことにならず、何がすべてなのかを示す部分と対になって初めて命題になる。文頭に置かれたこの一語は、後続に来る譲歩の形をあらかじめ予約する記号です。予約が果たされないまま文が終われば、読者は掃かれるはずだった範囲を知らされないまま取り残されます。会話文では、この予約を意図的に踏み倒す書き方も可能です。人物が言いさして黙れば、束縛されない量化子だけが宙に浮き、何を掃こうとしていたのかを聞き手が想像することになる。呼応が強い語ほど、途中で切ったときの空白も大きくなります。
しかも、この構文が例として選ぶのは、たいてい結論にとって最も不利な場合です。雨、全員の反対、失敗、命の危険——条件の分布の端にある値を一つだけ置いて、「この極端な場合ですら帰結は変わらない。ならば、それよりましな場合は言うまでもない」と読ませる。数学には、単調な関数なら端点だけ調べれば区間全体の挙動が分かる、という論法があります。この構文が使っているのは同じ省略です。状況の過酷さに対して決意の成立が単調である、つまり過酷な場合に保てるなら楽な場合にも保てる、という前提を暗黙に置き、端点一つの検査で全区間を掃く。だから「たとえ晴れても決行する」という文は据わりが悪い。晴れが最悪の場合に見えず、単調性の向きが読み取れないからです。
確率の語彙で言い直すこともできます。二つの出来事が独立であるとは、片方が起きたと知っても、もう片方の起こりやすさの見積もりが変わらないことでした。「たとえ雨が降っても決行する」は、決行という出来事が天候と独立だと宣言しています。条件つきの見積もりと、条件を知らないときの見積もりが一致する。対する「もし雨が降ったら順延する」は、天候を知ることで順延の見積もりが跳ね上がる関係、つまり強い従属を述べる文です。独立を主張する構文は、世界に因果の線が一本少ないと言っているに等しい。誓いの文がしばしば力を持って響くのは、その一本を人の意志のほうで切ってみせるからでしょう。
仮定の語彙の一族を、この観点から並べ直すこともできます。「仮に」は議論のための仮置きで、証明が「これを真と置くと」と始める操作に対応する。背理法の第一手の語です。「万が一」は確率の語で、起こりにくさの見積もり——万に一つ——が語形そのものに刻まれています。「もし」は場合分けの一枝を選んで下りていく。そして冒頭のあの語だけが、枝を選ばずに全部の枝を一度に束ねます。どの仮定の語を使うかは、話し手が可能性の空間をどう切り分けているかの申告でもあるわけです。
物語の中では、この構文はしばしば誓いの形式として現れます。たとえ世界を敵に回しても、と口にする人物は、自分の結論がいかなる条件にも依存しないと宣言している。そして物語は、その全称の主張を検証しにかかります。作者が後の章で用意するのは、たいてい宣言の時点では想定の外にあった、さらに悪い場合です。全部の場合を掃いたはずの誓いに、分布の外側から反例が届く。誓いの本当の強度は、その瞬間に初めて測定されます。全称の主張が反例一つで崩れるのは、論理でも物語でも同じです。
文: hakadoru.ai 編集部
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