うっとりとするような

【うっとりとするような】形容詞句

使い分けの視点

この句は、飾る名詞を主語にしていません。うっとりするのは声や香りではなく、それを浴びた側のほうで、体験者の席は文の外に開いたままになります。誰の感覚で場面を受け取るかという視点の設計を、修飾ひとつで黙って済ませてしまう道具です。席を空けて読者を座らせるのか、視点人物の名を地の文で添えるのか。その選びどころまで含めて使うと、単なる甘美な飾り文ではなくなります。

同義語

同品詞の類義語

夢心地になるような
魂を蕩かすような文芸的
陶然とさせる文芸的
酔うような

類義句

同品詞の慣用的言い換え

魂が溶けるような文芸的
心を蕩けさせる文芸的
夢に誘うような

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

蜂蜜のような
甘い夢のような文芸的
麻薬のような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ぼうっとcolloquial
とろりとcolloquial
心を奪われて

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

心を蕩けさせる文芸的
魂を奪う文芸的
夢に引き込む

体言的言い換え

用言を体言に変換

陶酔の調べ文芸的
夢心地の時間

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

魂まで溶かすような文芸的
意識が霞むほどの文芸的
微睡みを誘う文芸的

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

外の関係エッセイ関連

例文: 「さんまを焼く匂い」の匂いが焼く側に戻れないように、この句も飾る名詞を主語にしない。外の関係の芸当が、看板の惹句にまで紛れ込んでいる。

うっとりとさせる声エッセイ関連

例文: うっとりとさせる声だった、と手紙に書けば、体験者の席は語り手の手元に取り戻される。

恍惚の体験者エッセイ関連

例文: 恍惚の体験者は文の中に登場しない。その空席に、視点人物と読者がそっと座る。

主語のすり替え——「うっとりとするような」の文法

デパートの一階、香水売り場の販促カードには、しばしば「うっとりとするような香り」と書いてあります。読み流せばそれまでの惹句ですが、立ち止まって主語を探すと、奇妙なねじれが見えてくる。うっとりとするのは香りではありません。瓶の中の液体は何も感じない。恍惚とするのは、それを嗅いだ客のほうです。つまりこの修飾句は、自分が飾っている名詞を主語にしていない。述語の主語を文の外に置き去りにしたまま、平然と名詞に取り付いている。日常の看板に紛れているせいで気づきにくいものの、これは日本語の連体修飾のかなり際どい芸当です。

組み立てを分解すると、擬態語「うっとり」に助詞「と」が付いて様態の副詞句になり、「する」で述語化され、比況の助動詞「ようだ」の連体形が名詞へ橋を渡す、という四段構えになっています。問題は「する」の主語の空席で、被修飾名詞の「香り」はそこへ戻れません。日本語学では、修飾される名詞を修飾節の中の格位置へ戻せないこの型を「外の関係」と呼びます。「さんまを焼く匂い」の「匂い」が「焼く」の目的語でも主語でもないのと同じ構造で、名詞と節は格関係ではなく、因果や随伴といったゆるい絆で結ばれているのです。

では、空いた主語の席には誰が座るのか。読み手です。「うっとりとするような声」と書いた瞬間、恍惚の体験者として、文中にいない誰か——ふつうは視点人物、そしてその肩越しにいる読者——が呼び込まれます。「泣ける映画」「笑える話」と同じ仕掛けです。映画が泣くわけではないのに、経験者の席がいつのまにかこちらへ回ってくる。修飾句ひとつが、誰の感覚でこの場面を受け取るのかという視点の設計を、こっそり済ませてしまうわけです。

この句形には共起の癖もあります。座りがよいのは「声」「旋律」「香り」「眺め」といった知覚の名詞で、「うっとりとするような手続き」はどこか珍妙に響きます。恍惚は感覚入力への反応なので、知覚の対象になりにくいものとは因果の橋が架かりにくいのだと考えられます。もうひとつの制約は、述語の位置に立てないことです。「この声はうっとりとするようだ」と書き換えると、「ようだ」が比況から推量や伝聞のほうへ滑り、誰かの報告を又聞きしたような別の文になってしまう。連体の位置でだけ安定して働く、修飾専用の道具なのです。逆に、使役を挟んだ「うっとりとさせる声」なら、声そのものを主語に立てられます。誰を、と体験者を目的語で名指しすることもできる。同じ事態を挟んで、視点の置き場所だけが違う二つの構文が並んでいるわけです。

実務的な帰結はこうなります。この句を使うとき、書き手は「誰が恍惚とするのか」を書かずに済ませている。それは省力であると同時に、選択でもあります。体験者の席を空けておくからこそ読者が自分から座ってくれる場面もあれば、視点人物の感受性を地の文で名指しして引き受けたほうが強く響く場面もある。恋愛小説で使い古された句だという批判はありますが、手垢の正体はおそらく語彙ではなく、空席の放置のほうです。空席のまま差し出すか、席札を立てるか——そこまで決めて初めて、この便利な修飾句は描写の道具になる。

文: hakadoru.ai 編集部

エディタで直接置換して執筆を加速

SaaS エディタではシソーラスの結果をワンクリックで本文に反映できます

無料で始める →