ないし
【ないし】接続詞使い分けの視点
「または」「もしくは」「あるいは」は選択肢を並べ、「から」は数量・期間の範囲を作ります。「ないしは」は硬い選択、「あるいはまた」は候補追加、「場合によっては」は条件付きの可能性です。「もしくはいっそ」は第三案へ踏み込み、「おおよそ」は概略を示す名詞・副詞として扱います。
同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
「または」「もしくは」「あるいは」は選択肢を並べ、「から」は数量・期間の範囲を作ります。「ないしは」は硬い選択、「あるいはまた」は候補追加、「場合によっては」は条件付きの可能性です。「もしくはいっそ」は第三案へ踏み込み、「おおよそ」は概略を示す名詞・副詞として扱います。
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。
例文: 三日か四日という曖昧な予定は範囲と選択の蝶番になり、隊員は四日分の水を積んだ。
例文: 恋文を規約のように書く青年のよそゆきの文体から、感情を形式で包む照れが透けて見えた。
六法全書をめくっていると、「第十五条ないし第十八条」という言い回しに突き当たります。法令でのこの語は「から〜まで」、すなわち範囲の指定です。第十五条から第十八条までの四つの条文を、まとめて指している。ところが日常の文章に目を移すと、「お電話ないしメールでご連絡ください」のように、二つの選択肢のどちらか——「または」の意味で使われることのほうがはるかに多い。同じ一つの語が、法律の世界と日常の世界とで、別の顔を持っているのです。
出自をたどると漢語の「乃至」に行き着きます。仏典に、長い列挙の途中を省いて両端だけを示す用法があったとされ、範囲の読みはこちらが古いようです。範囲を示していた語が、なぜ選択の語へ流れたのか。「完成まで三日ないし四日かかる」という言い方を考えると、通路が見えてきます。この文は「三日から四日の間」とも「三日か四日のどちらか」とも読める。両端が近接していれば、範囲と選択は実質的に同じことを言っているからです。どちらにも読める用例が蝶番になって、意味が静かに乗り換えていったと考えられます。
文学史の側から見ると、この語は言文一致の網をすり抜けた、漢文訓読体の生き残りです。明治の書き手たちが地の文を話し言葉へ近づけていく過程で、訓読由来の語彙の多くは小説から退き、論説文や公文書へ居場所を移しました。同じ訓読育ちでも「および」や「または」が実務の定型として日常に溶けたのに対し、この語はどこか古風な響きを保ち続けています。そして小説との関係でも、同じ道を歩みました。近代以降の小説の地の文にはほとんど現れず、現れるとすれば、作中に引用される規則の文面や辞令、あるいは役所や軍隊に属する人物の台詞の中です。つまり小説という形式の内部で、この語は一貫して「よそゆきの文体」の標識として働いてきた。
皮肉なのは、本籍地であるはずの法律実務が、この語を持て余しつつあることです。範囲とも選択とも読める曖昧さは、契約書では紛争の火種になります。そのため現代の契約実務では、この語を避けて「から〜まで」「または」と明示的に書き分けることが推奨される場面が少なくありません。範囲の意味を保存してきた法令の側が曖昧さを理由に手を引き、選択の意味で使う日常の側だけが残る。語の重心が——数十年という単位で——ゆっくり移動している最中なのだと言えます。
書き手にとって、この来歴はそのまま道具になります。語り手に「ないし」と言わせれば、語りに事務的な硬さが一枚加わる。恋文の中にこの一語が紛れ込んでいれば、書き手の生真面目さや、感情を書式で包もうとする照れが透けて見えます。翻訳小説の契約場面や探偵小説の遺言状でこの語に出会うなら、それは訳者や作者が文書の格を一段持ち上げた痕跡です。選択を示す語は他にいくらでもある。けれども経典と条文を通ってきたこの語だけは、通ってきた場所の空気を今も袖に残しています。語の履歴は、意味より先に、文体として読者に届く。
文: hakadoru.ai 編集部
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