駅から歩く、朝から働く、話はそこから始まる——助詞「から」は、空間の出発点から時間・原因・範囲の起点へ意味を広げてきました。「それから」は指示語「それ」で前の事柄を受け、その地点を出発点として次へ進む形です。現代では時間的な継起や項目の追加を示す接続詞として一まとまりに感じられますが、内部には「そこを起点に」という空間的な構造が残っています。
時間を道として捉え、出来事を地点として並べる認知は、文法変化を支えます。見えない順序を移動の語で表すことは、日本語だけに限らない広い傾向です。
初めは具体的な指示対象を受ける句でも、頻繁に文頭で使われれば、前文全体を受ける談話標識へ育ちます。「それから三日後」は起点を比較的明示し、「それから、もう一つ」は時間より話題追加を示します。後者では移動の像が薄れ、会話の順番を管理する働きが強くなります。文法化は語の形を必ず短くするわけではなく、指す範囲を物から談話へ広げることもあります。
同じ形の中に、空間、時間、話題順序という古い層と新しい層が重なります。どの起点を使うかは文脈が選びます。
列挙の用法も、同じ構造から派生しています。「醤油、それから味醂」と並べるとき、時間は流れていません。先に挙げた項目を起点として次の項目へ移る、という順番だけが残っています。時間軸を外しても順序の骨格が残るという点で、この形は「そして」より起点性を強く保っています。定型化した全体の用法は、部品の意味の合計とは別に確認する必要があります。
昔話や口承的な語りで反復すれば、出来事を一段ずつ運ぶリズムになります。近代の口語文でも、子供の語り、手順説明、回想に自然に入り、文章語の「次いで」より話者の現在に近い位置にあります。「そして」と比べると、先行事態からの時間的な距離や、話者が次の項目を思い出す動きが見えやすくなります。語が古くからあることと、古風に響くことは同じではありません。
時代ごとの文体では、競合する接続形との分布が変わります。通時変化は一語だけでなく、接続詞の体系全体で起こります。
会話の「それから?」は、次の出来事を促す質問になります。接続詞が聞き手の発話を要求する形へ変わり、物語の順番を共同で作ります。下降調の「それからね」は、話者が追加を思い出した合図です。談話標識へ発達した語は、命題関係だけでなく話者交替や記憶検索にも働きます。
書き言葉では疑問符、改行、応答でこの機能を再現します。時間の接続が、会話参加者の順番の接続へ広がった例です。
創作で年代を表すために古い接続を機械的に選ぶ必要はありません。重要なのは、語り手が出来事をどの単位で順送りするかです。幼い回想なら一件ずつ、歴史叙述なら年代を大きく飛ぶかもしれません。同じ形でも、起点と次の地点の距離が文体を作ります。
場所から時間へ、時間から談話へ。指示範囲を広げてきた「それから」は、過去の出来事を一列へ固定するだけでなく、次に何を語るかという現在の選択も運んでいます。