ううん

【ううん】感動詞

使い分けの視点

ううんは、語源の書けない否定です。漢字も当てられず、古形も再建しにくい、体から直接出てきた語です。肯定と否定を分けているのは子音でも母音でもなく長さと抑揚で、いったん高く持ち上げてから下ろせば拒否になり、雑音の中でも聞き分けられます。文献上の系譜を持つ「いいえ」が改まった場で選ばれるのに対し、この声は体の距離が近い間柄に属します。

同義語

同品詞の類義語

いやcolloquial
いいえ
いえ
んんcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

そうじゃなくてcolloquial
違うよcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

ちょっと違うcolloquial
んーcolloquial
なんでもないcolloquial

関連語を探す

語釈エッセイと合わせて読む表現

下の語釈エッセイの論点とつながる言い換え・関連表現です。

うんエッセイ関連

例文: うんと短く落とせば肯定、持ち上げてから下ろせば否定。受話器の向こうの彼女には、それで十分に通じた。

首を振るエッセイ関連

例文: 言葉を覚えるより先に首を振ると、母は言った。弟はさっそく、夕食の人参にそれを使った。

喉が先にあった——語源の書けない否定

五十音図の最後に座る「ん」は、仮名のなかでは新参者です。奈良時代の日本語には撥音そのものが音韻として確立しておらず、平安時代に音便などを通じて広まったのちに、専用の文字が整えられていったと説明されています。つまり、鼻に抜けるあの音は、日本語の音の体系にあとから編入された住人でした。ところが順序は逆でもあって、文字や語彙の体系に入るずっと前から、人は鼻を鳴らして応答していたはずです。喉と鼻の唸りは、言語より古い。否定の相づちは、その古い層が現代語の会話のまんなかに露頭している場所だと見ることができます。

この見出し語の語源を辞書に求めても、はかばかしい答えは返ってきません。肯定の相づちが唸り声から固まったものだろうという見立てはよく語られますが、確かな文献的系譜をたどるのは難しく、複数の説明が並び立つ状態です。漢字も当てられず、古形も再建しにくい。語源調べの通常の道具立て——字源、借用元、複合の分解——が、この語にはことごとく空振りします。素性を尋ねられて答えに詰まる語というのは、多くの場合、書物ではなく体から直接出てきた語です。

それでも、観察できることはあります。肯定の唸りと否定の唸りを分けているのは、子音でも母音でもなく、長さと抑揚です。短く落とせば肯定、いったん高く持ち上げてから下ろせば否定。口の構えはほとんど同じで、旋律だけが意味を分けている。この輪郭は雑音に強く、電話越しでも滅多に聞き間違えられません。子音の細部が潰れても旋律は残るからで、その頑健さ自体が、この対が長く使われ続けてきた理由の一つでしょう。興味深いことに、英語の話し言葉にも鼻音だけの肯定と否定の対があり、やはり音の輪郭で区別されます。文字にしにくい応答が、別々の言語で似たような仕組みに落ち着いているわけです。

体系の側から照らす手もあります。日本語には、来歴の書ける正規の否定語も別にある。「いな」の系列に連なるとされる「いいえ」で、こちらは古典語から続く文献上の系譜を持ち、改まった場で選ばれます。身体由来の唸りのほうは気を許した相手にしか使えず、目上への返事に使えば砕けすぎとされる。一つの言語の中で、出自の異なる二系統の否定が、丁寧さの目盛りに沿って分業している格好です。語源が書ける語と書けない語の差が、そのまま公私の差に対応しているのは示唆的で、体から出てきた語は、体の距離が近い間柄でしか通用しないのだと言い換えることもできます。

表記のほうは、この旋律をどう写すかの苦心の跡と読めます。母音字を頭に足して、持ち上がってから下りる山なりの輪郭を写し、鼻音で締める。楽譜を持たない文字文化が、仮名だけで音程の輪郭を写そうとした結果と見ることができます。語源をたどる糸は切れていますが、その代わりにこの語は、起源を今も毎日実演している——赤ん坊が言葉を覚えるより先に首を振り、喉を鳴らすように、意味の根が語彙ではなく身体の側にある。来歴が書けないというまさにその事実が、この語の来歴です。

文: hakadoru.ai 編集部

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